ひとりかくれんぼを行うことになった私は、まず最初に、もういらないだろうぬいぐるみを一つ選んで準備を行うことにした。
実行場所はもちろん自分の部屋。私が実行して、狛枝君にリアルタイムで実況すると二人で決めたのだ。
まだ太陽の照らす時間帯にぬいぐるみを裂き、中から綿を取り出して行う下準備。ひとりかくれんぼのためと思いながらやらないと、自分の精神がおかしくなったんじゃないかと錯覚しそうになった。何故、まだ明るい時間からこの準備をやっているのかというと、こんなことを夜中にやってたら尚更恐怖が増しそうだったからだ。私は怖い話を聞くのは好きだけど、実際に怖い思いをするのはそんなに好きじゃない。
「こんな感じでいいのかな」
手に持った針を針山に刺す。針のその小さい穴には赤の糸が通ってしな垂れていた。そして目の前にはその赤の糸にぐるぐる巻きにされたぬいぐるみ。かつての愛嬌はどこへやら、巻かれた赤い糸やこの中に入っているのであろう米や自分の爪の切れ端を思うと全身に寒気が走るシロモノと化していた。これを夜中にやっていたら、見た目のグロテスクさが怖くて仕方なかっただろう。昼間からやっておいてよかったなと一人心中でごちると、タイミングよく携帯が鳴った。
『もしもし。準備終わった?』通話の相手は狛枝君だ。
「ちょうど終わったところ。なんだっけ、あとは夜中の三時まで待てばいいの?」
『そうそう。あ、今は大丈夫だけど、始める前には、コップに塩水の準備とお風呂に水を張ることを忘れないでね。隠れ場所の準備もね。お風呂の水はどうなのか知らないけど、塩水を忘れた人はひどい目に遭うんだって』
ひどい目に遭う。なんだろうそれは。こっくりさんとかでよくある、十円玉から手を離すと死が訪れる――みたいなものなんだろうか。
「塩水とお風呂ね、わかったよ。あとは隠れ場所の準備かな。……この隠れ場所って適当でもいいの?」
『よくわからないけど、仮にもかくれんぼなんだからちゃんと隠れないとだめだと思うよ。もし見つかったら、どうなっちゃうのか分からないんだし』
「あー、じゃあ丸ごと隠れられる押し入れとかでいいかなぁ」
そんなことを話しながら押し入れの襖を開閉する。二段構成になっているこの押し入れ。上の方はなかなかに天井が高いし、スマホや充電器の類を持ち込めば二時間近くなんて軽く悠々と過ごせるだろう。
そんなこんなで狛枝君と下準備の話をしながら、私はようやく夜中の三時を迎えるのだった。
時刻は夜三時少し前。台所で塩水を用意して、お風呂場に水を張る。狛枝君に忘れるな、といわれたことは全てやった。十分に充電されたスマホの画面を覗き込む。三時になったらやることは、えっと――「最初の鬼は〇〇だから」とぬいぐるみに向かって三回言う、らしい
そういえば、ぬいぐるみの名前決めてなかった。ウサギのぬいぐるみだし、ウサでいいかな。適当だけど。
再度時計を見れば、時計は夜中三時をちょうどを指している。そろそろ頃合いだろう。
「最初の鬼はウサだから。最初の鬼はウサだから。最初の鬼はウサだから」
うさぎのぬいぐるみに向かって三度言う。言い終えた私はぬいぐるみを持って風呂場へと向かう。確か記憶が正しければ、ぬいぐるみを風呂桶に入れるはずだ。
水のたまった風呂桶にぬいぐるみを沈めると、布が水を吸ってずしり、と少し重くなった。その重みに任せるままぬいぐるみを風呂桶の底に沈めると、台所に戻る。部屋の電気をすべて消して、テレビだけはつけた。やっぱり砂嵐のチャンネルは無かったから、放送停止しているチャンネルだけを流した。
しん、とした部屋の中、目を閉じて数える。一、二、三……。そうやって十まで数えると、机の上に用意していたカッターナイフを手に持つ。刃を出しながら、風呂場に向かう。完全に水を吸ったぬいぐるみは水の中に沈み、巻き付けられた赤い糸をゆらゆらと揺らしながらそこに居た。
「ウサみつけた」
ぬいぐるみを風呂桶から取り出してカッターナイフを刺す。やっぱり不気味に感じる行為だったけど、そういう儀式なのだと自分に言い聞かせながら、何度も何度も。切り裂かれたお腹の傷口から生米が零れた。
「次はウサが鬼」
風呂場の簡易的な机にウサを置く。腹部が裂け、綿と赤い糸、米を腹からまき散らすぬいぐるみの姿は実に異様だ。その姿をあまり見ないようにして、私は事前に用意していたスマホや充電器を入れた鞄を取り、隠れ場所の押し入れの中へと入った。