私たちの前にはにんまりと笑う狛枝君。彼は楽しそうな笑みをたたえているが、その笑みが私とカムクラ君に向けられた時は、大体ロクなことにならないのを私は知っている。
「ひとりかくれんぼって知ってる?」
 ほら、やっぱりこの流れだ。彼はきっと、何かしらの怪異の情報を手に入れたのだろう。そして私たちを巻き込むはずだ。いつものように。
「一昔前に流行った降霊術の一種ですね」つまらなさそうにカムクラ君が言う。
「降霊術って、こっくりさんとかそういうの?」と私。
「ジャンルはいっしょかもね。でもやり方はこっくりさんとは全然違うんだよ」これは狛枝君。
 やり方が違う? と首を傾げていれば、狛枝君がスマホを取り出して、あるホームページを開く。
 どうやら彼のように怪異に詳しい誰かが面白半分でそういう類のものを纏めたページらしく、ひとりかくれんぼのやり方が詳細に書いてある。
 覗き込んでそのホームページを見てみると、狛枝君が私の読むスピードに合わせてスクロールをしてくれた。


 

 ひとりかくれんぼのやり方は、手足のあるぬいぐるみを用意して、その綿をすべて取り除いた後、代わりに米をぬいぐるみに詰める。そして自分の爪を切り、その人欠片を入れた後赤い糸で縫って、縫い終わった後はその赤い糸をそのままぬいぐるみに巻き付けてある程度できればひとまず完成。最後にはそんな無惨な姿になったぬいぐるみに名前を付ける。忘れてはならないのは、この作業は夜中の三時迄には終わらせなければいけないこと。
 これで一通りの準備は終わりだそうだ。
「なんだかぬいぐるみが可哀想……」
「こんなの、まだまだ序盤の準備だよ。これからもっと酷いことをぬいぐるみにしないといけないんだから」
 狛枝君が先を促す。既に大分グロッキーなぬいぐるみの完成図が頭の中で思い描かれていた私は渋々続きを見ることにした。
 続いて、ひとりかくれんぼの手順が箇条書きで書かれている。
 かくれんぼの名前に正しく、まずはぬいぐるみを鬼として「最初の鬼は○○(自分の名前を入れるらしい)だから」と三回繰り返した後、風呂場に行き水を張った浴槽にぬいぐるみを沈める。そして部屋に戻って、家中の明かりを消してテレビだけをつける。この時はテレビは砂嵐の画面にしないといけないらしい。そして十秒待つ。
「砂嵐のテレビって今時あるのかな?」
「うーん。放映されてないチャンネルでもつけていればいいんじゃない?」
 そういうものなのか。そんな適当なものでも大丈夫なのだろうか……。そう思いつつ、再度続きを見た。
 包丁またはカッターナイフを持ってうろうろしながら風呂場へ向かう。別に真っ直ぐ行ってしまっても構わないらしい。かくれんぼという名前を冠してるのに、そんなのでいいのか。
 ぬいぐるみの所まできたら、「△△(ぬいぐるみの名前)見つけた」と言って、包丁をぬいぐるみに刺す。そして「次は△△が鬼」といいながらその場所において、すぐに隠れて逃げる。このすぐに隠れて逃げるという一文が、妙に大きく誇張されたフォントで書かれているもので、ぞわっとした感触が背中を登った。そして押し入れでもなんでもいいから隠れる。この時塩水は忘れてしまうとアウトらしい。
 あとは、心霊現象が起きるまでひたすら隠れて待つ。ただし二時間以内には必ず終わらせること。
 これがひとりかくれんぼの全貌だった。


 読み終えた私たちは謎な空気に包まれていた。誰も喋らず、口を開かない。無言だけが私たちの間を漂っている。
 ひとりかくれんぼという名前だけは知っていたけど、まさかこんなやり方だったとは。
 赤い糸でぐるぐる巻きにされ、しかも包丁でめった刺しにされたまま放置されるぬいぐるみ。ぬいぐるみといえど、血を連想させるような赤い糸が絡んでいるそれに凶器が刺さっているのだ。明るい内にやるのならまだしも、真夜中の、それも深夜ごろにそんな不気味なものを見たら、分かっていても思わず悲鳴を上げてしまうかもしれない。
「……なるほど」
 そんな中、最初に口を開いたのはカムクラ君だった。
「どんなものかと気になって見てみれば……。予想以上にツマラナイですね」
 なんともいつも通りの彼の反応に狛枝君が白けた目線を送る。
「やってみようよ、そう言わずにさ」
「そもそもぬいぐるみなんて僕持ってませんし」
「あ。そう言われてみれば、ボクも持ってないや」
「えーっ? 持ってないのにやりたいって言いだしたの?」
「なんだか面白そうだなって気になって」
 私とカムクラ君の二人分の呆れた目線が狛枝君に向く。それを狛枝君は笑ってごまかした。
「とにかく。僕は降ります。付き合ってられません」
「本当にやらないの? 少しは気にならない? いったいどんなことが起きちゃうのか、とかさ」
「やるなら勝手にどうぞ。いつもなら僕が足役として呼ばれてましたが、今回は車も何も必要ないでしょう」
 そうと言われれば狛枝君はすんなりと下がった。もとより、危険だとよく言われているひとりかくれんぼだ。さすがの彼も無理に誘おうだなんて考えていなかったようだ。それを見越してか、カムクラ君は早々に去って行ってしまった。
「……それで、苗字さんさ。苗字さんはぬいぐるみって持ってる? もし持ってるなら折角だしやってみない?」
「へ? これ私がやる流れなの?」
「当然。どうせ興味の一つくらいあるんでしょ」
 にやりと口角を上げる狛枝君。彼の言う通り、図星だった。もし興味が無かったのなら、私もカムクラ君と一緒にこの場を去ればよかった話だ。なのにこの場所に残り続けたのは、やはり少なからず興味はあって。ちょっとやってみたいという怖いもの見たさからだ。つくづく狛枝君に毒されているな、と感じる。
「あるけど……。適当にぬいぐるみ一つ見繕えばいい?」
「そうだね。でも、今日やるにはさすがに早急すぎるかな。実行は明日にでもしようか。深夜三時以降にやり始めるから、実質明後日だけどね」
「わかった。それまでに準備は終えとくね」
 彼に手を軽く振ってそう応対する。そしてそのままその場はお開きになった。


 ――そうして私たちのひとりかくれんぼは幕を開けることとなったのである。