「起きろおおおおおおおおおおおーーー!!! 朝だぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉー!!!」
大きな怒号と共に目が覚めた。大声に慣れていない耳がキーンとなっている。頭がぐわんぐわんと揺れて痛み、耳は今にも鼓膜が破れそうだった。
なんてバカでかい声なんだろう。その声量によってまどろみは吹き飛び、目はぱっちりと目の前の光景を映し出していた。
「いつまで寝てンだよーーーーーーっ!! 早く起きろーーーーーっ!!」
ぐわあああ~~んと大きな揺れが頭を襲った。頭を押さえながら体を起こせば、横で寝ていたタイはあ耳を押さえては泣き言を呈していた。
「寝ぼけてンじゃねーーーーー! オレはドゴームのコウ。弟子の一匹だ」
名乗ったその人はせわしなく動いたかと思えば、また大きな声を出した。
「急げ! 集合に遅れるととんでもないことになるぞ! もしもユウおやかたを怒らせて……その逆鱗に触れた日にゃ……。あのおやかたの……たあーーーーーーーーっ!! ……を食らった日にゃ……」
そこまで言ってコウは震えあがる。こんな大声の持ち主を震え上がらせるなんて、一体どんなことが起きたのだろう。
「ああ、考えただけでも恐ろしい……。とにかーくっ! オマエらが遅れたせいでこっちまでとばっちりを食うのはゴメンだからな! 早く支度しろよな!」
そう言ってコウはドタバタと踵を返してしまった。
とんでもない声だった。まだ頭がぐわんぐわんとしている。麻痺しかけた頭でなんとか支度をしようとすれば、まだ正気に戻っていたないのか目を回したタイが揺れていた。
「うう……まだ耳がキーンとしてるよう……」
一足先に支度ができた、といっても支度も何もすることがないというのが正しいが―、私はまだ転がるタイを揺さぶる。ようやく現実に戻ってきたタイはハッと目を覚ました。
「支度……、えっ! あっ、そうか。ボクたちプクリンのギルドに弟子入りしたんだよね」
もしかしてあの声量を前にしてでも寝ぼけていたのだろうか。とんだ逸材だ。
支度をするよう促せば、ようやく現状を理解したタイが叫んだ。
「って、ボクたち寝坊だよ! 急ごう! !」
……だからさっきから支度しようって言ってるじゃん……。
弟子たちの部屋をつなぐ廊下を疾走してから少し後、開けた場所に私たちはでた。そこにはすでに何人かのポケモンたちが揃っていて、私たちの姿を確認したコウが叫んだ。
「遅いぞ! 新入り!!」
慌てて列に整列するも、その声に私たちが思わず委縮する。そして、私たちが並んだことを確認したウタが負けじと大きな声で怒鳴り返す。
「お黙り! オマエの声は相変わらずうるさい!」
これが普段からの声量なのかと驚くが、うるさいと怒られたコウはしょんぼりと肩を落とした。なんだか可哀想だけど、普段からその声量ならうるさいと怒られるのも納得できる。ウタはコウのその様子を気にすることなく、ウタはおやかたさまの方へと振り返った。
「全員集まったようだな。よろしい。ではこれから朝礼を行う。おやかたさまー、全員揃いました。それでは一言お願いします」
ウタの言葉に思わず気が張り詰める。厳しいと言われるこのギルド。朝礼ではおやかたさまは何を言うのか……。開かれたその眼を私はじっと見つめた。しかし……。
「……ぐうぐう……ぐーう」
聞こえたのは、ね、寝言じゃないか……これ……。
その様子に周りのポケモンたちがヒソヒソざわざわと内緒話を始めだす。それを盗み聞きするに、なんとおやかたさまは目を開けたまま寝ることができる御仁らしい。なにそれすごい。私もできるようになりたい。
「ありがたいお言葉ありがとうございましたぁ! さあみんな、おやかたさまの忠告を肝に銘じるんだよ!」
そしてこのまま続行していくウタもすごい。日常茶飯事なんだろうか……。
そのあと、ポケモンたちが大合唱で誓いの言葉を言うのを聞いた。こんな言葉があったのかと私は記憶する。きっとこれから私たちもこれを言う様になるんだろうな。
ウタの仕事にかかるよという言葉によってみんなは一斉に霧散していく。でも、私たちはまだまだ初心者ということもあって、ウタにすぐに話しかけられた。ウタに呼ばれたままついていけば、ギルドの地下一階へ連れていかれ、掲示板の前へ私たちは立っていた。
掲示板には様々な紙が所狭しと張り付けられていた。どうやら各地のポケモンたちの依頼がここに集まっているらしい。最近ポケモンが増えているのもあって、依頼も増加しているのだとか。
「なんでも時が狂い始めた影響で悪いポケモンたちが増えてるんでしょ?」
とはタイの弁。
時が狂い始めているとはなんのことだろうか。時ってことは時間のことだろうけど、それがおかしくなっている? そしておかしくなった影響で悪いポケモンが増えている……。一体どういうことなのだろう。
「その通り。また、これも時の影響なのかどうかはわからないが……、最近各地に不思議のダンジョンも広がってきている」
不思議のダンジョン? これまた聞きなれない言葉だ。よくわからず首を傾げていれば、それを察したらしいタイが補足を入れてくれた。
「昨日ボクたちが遺跡の欠片を取り返したよね? あそこは海岸の洞窟と呼ばれているんだけど……、あそこもまた不思議のダンジョンなんだよ」
なるほど。奇妙な場所だとは感じていたけれど、あそこも不思議のダンジョンなのだと聞けば納得がいく。なんでも、不思議のダンジョンは入るたびに地形が変わって、落ちている道具も変わるらしい。そこで倒れてしまえば外に戻された挙句、お金は無くなってしまい、持ち込んでいた道具も半分に減るのだとか。なんとも嫌な話だ。
「でもね、行く度にいつも新しい発見があるから、探検するには本当に魅力的な場所なんだよ!」
どうやら、タイのような好奇心旺盛な人にはハイリスクハイリターンな場所らしい。タイの言葉にウタが賞賛をする。
「なんだ、良く知ってるじゃないか! それなら話が早い。依頼の場所は全て不思議のダンジョンだからな。さて……ではどの依頼をやってもらおうかな」
この掲示板に張りつめられた依頼は全て不思議のダンジョンなのか。不思議のダンジョン。ハイリスクでありながら、多くのポケモンを魅了しているのだと私は悟った。
掲示板を吟味していたウタが突然止まる。どうやらちょうどいい依頼を見つけたようだ。
ウタが差し出した紙をタイが受け取る。私は横からその紙を覗き込むようにして見た。
依頼主はバネブーのるりさん。自分の命に等しい真珠を盗まれてしまったとのこと。目撃情報があり、盗まれた真珠は岩場にあったらしいが、怖くて取りに行けないのでギルドの誰かに取りに行ってほしい……。というのが全容だ。
「……ってこれ、ただの落し物を拾ってくるだけじゃない!?」
私もタイの言葉に頷く。盗まれたのはかわいそうだが、怖いので誰か代わりに拾いに行ってください。というのはなんだか拍子抜けする話だ。タイは続けて冒険がしたいとぐずるが、ウタに一喝されて縮こまってしまった。まあ、新入りだし強くは出れないよね……。渋々といった様子でタイはその依頼を承諾する。その姿にウタはうんうんと頷いて私たちをグイグイおしてどこかへ行ってしまった。
……新入りだから下積みが重要なのもわかるけど、こういうのが多いのかと思うとちょっと大変に感じるなぁ。