「おやかたさま。こちらが今度新しく弟子入りを希望しているものです。」
おやかたさまと呼ばれたその人はこちらに背を向けていた。ウタがその背中に言葉を投げかけるも、その人が振り返る様子はない。
「おやかたさま……。……おやかたさま?」
ウタが再度声をかける。が、まだ振り返る気配はない。まさか寝てるんだろうか。そう思って私とタイがすこーしだけ首を伸ばして様子を見ようとした時だった。
グイっといきなり彼が振り返って私たちは少しだけ飛び上がってしまった。
「やあっ!! ボク、プクリンのユウ! ここのギルドのおやかただよ? たんけんたいになりたいんだって? じゃ、いっしょにがんばろうね!」
その、まるで間延びするような雰囲気に私たちはポカンと口を開けた。すかさずウタの怒号が飛びすぐに正気に戻るが、油断するとまた口をポカンと開けてしまいそうになる。ウタが恐る恐ると部屋に入っていくものだから、てっきり怖い人なのだと思っていたらまさか正反対だったなんて。
「とりあえずたんけんたいのチームめいをとうろくしなくちゃ」
「ええ? チームの名前? チームの名前なんて考えていなかったよ」
私もすっぽりと名前なんて抜けてしまっていた。でも考えるとそうだ。何組もこのギルドには探検隊と思われるポケモンたちがいたのに、名前がなければ区別に困るに決まっている。
「。何かいい名前ある?」
そう言ってこちらを見るタイ。名前……。名前かぁ。……そのまま探検隊とかダメだろうか。
「ダメ。……もしかしてってネーミングセンスない?」
疑うようにこちらを見るタイ。だって今まで名前を何かにつける機会なんてなかったんだからネーミングセンスなくったっていいじゃない。記憶を失う前がどうだったかはよくわからないけど。
「うーん。それじゃボクが考えようかなぁ。……ボクたちが活動してるってわかるような名前がいいなぁ。ボクたちがこれからを描いていくっていうような……。描く……、そうだ! 名前はペイントとかどう?」
タイのこれいいでしょ!という自信満々な顔に頷く。馬鹿にされた手前、認めてしまうのはちょっと癪に感じたが、普通に良い名前だと思ったのでとりあえず頷いておいた。
「きまりだね! じゃあペイントでとうろくするよ。とうろく、とうろく」
「みんな、とうろく……」
そう言ったおやかたさまは蹲ったかと思うと、勢いよくジャンプする。
「たあーーーーーーーーっ!」
突然の大声に私たちは目を白黒させる。そんな私たちに対し、おやかたさまはニコニコと笑った。
「おめでとう! これでキミたちもきょうからたんけんたいだよ! きねんにこれをあげるよ」
そう言って渡されたのはポケモン探検隊キットと書かれた箱だった。全く同じものをタイも貰っている。
「ポケモン探検隊キット?」
「うん。たんけんたいにひつようなものなんだよ。はやくなかをあけてみて」
タイはそれを聞いて素早く探検隊キットを開けていた。私もそれに倣って箱を開ける。
中にはバッジやスカーフ、不思議な地図、バッグが入っていた。
「わあ~! いろいろ入ってる!!」
「まずたんけんたいバッジとたんけんたいスカーフ。たんけんたいのあかしだよ。そしてふしぎなちず。とてもべんりなちずなんだよ。さいごにトレジャーバッグ。ダンジョンでひろったどうぐをとっておけるんだよ」
おやかたさまのことばと一緒に道具を取り出しては見る。タイなんて気が早くてスカーフをもう首につけていた。
「トレジャーバッグはね、キミたちのこれからのかつやくによってバッグのなかみもどんどんおおきくなっていくという……とてもふしぎなバッグなんだよ」
確かにそれは不思議だ。そう思ってバッグを触っていると何かの感触があった。おやかたさまが取り出すように笑いかける。中から取り出してみるとリボンが入っていた。何のリボン
なのだろう?
「そのふたつのどうぐはとくべつなもの。キミたちのたんけんにきっとやくだつとおもうよ」
「あ、ありがとう! ボクたち、これからがんばります!」
タイの感極まった声におやかたさまは満足そうに頷く。
「うん。でも、まだみならいだからがんばってしゅぎょうしてね!」
「はい!」
元気よく返事したタイは期待に満ち溢れたまなざしで私を見る。
「! 一緒に頑張ろうね!」
私はその瞳に力強く頷き返した。