プクリンのギルドは海岸からそう離れていない場所にあった。名前の通り、プクリンの顔をかたどった建物が私たち二人を出迎えていた。
「ここがプクリンのギルドだよ。探検隊になるなら、ここでまずチーム登録をして……一人前になるまで修行しなくちゃならないんだけど……」
 だんだんと声が小さくなっていくタイ。どうしたのかと見れば、体をブルブルと震わせていた。まさか怖がってる?
「な、なんか怪しげなところだよね。やっぱり」
 そう同意を求められるが、私は肯定も否定もすることなく無言で見つめ返した。だって、タイは怪しいといっているけど、私には可愛らしいプクリンの顔を象った建物が怪しいなんて到底思えなかったのだ。
 私の同意を得られなかったことに、ちょっとしょんぼりとしたタイはギルドの方へと向き直す。
「いや。今度はも一緒なんだ。勇気を出さなくちゃ」
 タイはそう言うも、まだ決心がついていないのかウロウロと歩き始める。
 最初はそれを私は黙って見つめていたが、ずっとウロウロするタイを見て、あまりに長い葛藤に私の限界が先に来た。ちょうどいいタイミングを見計らって、ウロウロとするタイをグイっと押し出す。まさか突然に押し出されるなんて思っても居なかったのか、タイは簡単に目の前の穴に押し出された。
 唐突のことにタイは目を白黒とさせたが、痺れを切らした私の仕業だと分かり抗議の声を上げようと私を恨めし気に見た瞬間。
「ポケモン発見! ポケモン発見!」
「誰の足型? 誰の足型?」
「足型はピカチュウ! 足型はピカチュウ!」
「わわっ!」
 穴からの突然の声に驚きの声を上げる。私も声こそ上げなかったが、結構驚いた。
 タイはガクガクと足を震わせ、今にも逃げ出そうとしたが、振り返って私の姿を目にすると首を強く振って何とか踏みとどまった。
「ここは我慢しなくちゃ……」
 タイはそう言って穴の上にとどまり続けた。そうすると穴の中から再度声が響く。
「……よし。そばにもう一匹いるな。オマエも乗れ」
 傍にもう一匹、とは私のことだろうか。タイは振り返って私に「たぶんのことだと思う」と賛同する。そして穴から退いた。
 タイが離れた穴を見る。穴の上に細かい格子が張ってあって、誰が見ても落ちない作りだ。でもなにか奇妙さを感じる。あそこに立ったら足の裏がこそばゆそうというか、ちょっと乗りたくない。
「おい! そこのもう一匹! 早く乗らんか!」
 穴からの声が怒号に代わって渋々と格子の上に乗る。予想してた通り格子が体重によって足にピッタリ張り付いて少しだけこそばゆかった。再度ポケモン発見のアナウンスが聞こえる。でも、誰の足型か問われると穴からの声は少しくぐもった。
「足型は……足型はえーっと……」
「どうした見張り番! リク! どうしたんだ! 応答せよ!」
 どうやら何かトラブルのようだ。私の足型が分からないらしい。
「んーと……えーと……。えーと……足型はぁ……たぶんミズゴロウ! たぶんミズゴロウ!」
「なんだ! たぶんって!」
「だ、だってぇ……。この辺じゃ見かけない足型なんだもん……」
 どうやらミズゴロウはこの辺では珍しいポケモンのようだ。それならわからないのも仕方ないと思うが、謎の声はリクというポケモンを叱咤していた。足型を伝えるのが仕事だと叱る声とわからないものはわからないと泣き声で返すリクさん。
「……なんか揉めてるのかな」
 がっつり揉めている。しばらくその二つの声による問答が続いた後。少しの沈黙の後に謎の声が響いた。
「……待たせたな。まあ、確かにミズゴロウはここらじゃ見かけないが……、でも怪しいものではなさそうだな。よし! いいだろう、入れ!」
 その声と共にゴゴゴという音がして目の前の扉が開く。私はささっと格子の上から離れた。これ以上格子の上に立っていたらこそばゆさでどうにかなりそうだったのだ。
「ひゃー! 緊張してるせいか、いちいちびっくりだよ」
 そう言ってタイはため息をついた。そして安心したのか、その顔には喜色の笑みを浮かべている。
「でも入れるようになったみたいで良かったね。まだドキドキしてるけど……。とにかく行ってみよう」
そう言うやいなや、タイはギルドの中へと入って行ってしまった。ずっと憧れていると言っていたギルドだ。待ちきれなかったのかもしれない。私もその後ろへと続いて行った。