宝物を取り戻した私たちは最初の海岸に戻っていた。帰る途中から今の今までずっと満面の笑みを浮かべ礼を述べるタイ。なりゆきで助けてしまったけど、ここまで喜んでくれるのなら助けがいがあったように感じる。私が倒れていたところまで戻ってくると、タイは大事に抱えていた遺跡の欠片を私とタイの間に置いた。
置かれたそれをじっくり見てみると、どこかから削り取られたような石の表面に謎の文様が描かれている。見たことがないその模様に首を傾げていると、タイが口を開いた。
「これは遺跡の欠片。ボクの宝物なんだ。ボク、前から昔話や伝説が大好きでさ……。そんな話を聞くたびにワクワクするんだよ!」
そう語るタイの目はキラキラと輝いていて。心の底から昔話や伝説について憧れているのだと私に物語って見せた。
「だってそう思わない? ナゾの遺跡や隠された財宝……。闇の魔境や誰も行ったことがない新しい大陸……。そんなところには黄金や財宝がザックザク! そこにはきっとロマンがある。ボク、いつもそんなことを考えてはワクワクしてるんだよ」
確かに、未知の遺跡や誰も目にしたことの無いような宝物……。そういうものを考えては、心の中に湧き上がる何かがある。
「そしてある日……、ふとしたことで拾ったのがこの遺跡の欠片なんだ」
タイはこの欠片の模様について語る。見たことの無い模様。不思議なそれは伝説に憧れるタイの心をつかんだと考えるには容易だった。
「この模様にはきっと意味があるに違いないよ。この欠片が伝説的な場所や秘宝の入り口になっている……。そんな気がしてならないんだよ。だからボクも探検隊になって、この欠片がはまる場所をいつか発見したい! ボク自身でこの欠片のナゾをいつか解きたい! そう思ってさっきも探検隊に弟子入りしようとしたんだけど……。でも、ボク意気地なしでさ……」
先ほどまで興奮したように語っていたのと同一人物とは思えないように尻すぼみになっていく言葉。どんよりとした表情に垂れ下がってしまった尻尾や耳がタイの心情を明確に物語っていた。探検隊、というのはよくわからないが、タイはそこに入ろうとして失敗したようだった。まあ、先ほどズバットやドガースに奪われたときに何も言い返せずに固まっていた時のように、入門しようとして固まってしまった。それともそもそも入門すらできなかったのか。臆病さを振り切って面と立ち向かえれば十分強いと思うのに、なんだか宝の持ち腐れだ。
「……は、これからどうするの? 記憶をなくして何故かポケモンになっちゃったってことだけど…。このあとどこか行く当てとかあるの?」
そう言われてハッとした。そうだ。私はこれからどうすればいいのだろう。元人間だったということしか覚えていない。いや、元人間だったからといってどうにもならないだろう。文字通り、私はこれから路頭に迷うのかもしれない。私の行く当てなんてどこにもない。帰る場所すらわからないのだから。
思わず無言になってしまうと、タイはこちらをうかがう様に呟いた。
「……。もし無いなら、お願い。ボクと探検隊やってくれないかな? となら探検隊をやれる気がするんだ」
想定外の申し出だった。探検隊というのはよくわからない。文字から考えるに世界を探検するのだろうか? さっきのタイの話を聞いて、未知について興味が出たといえば出たけど……。全く知りもしないものをやっていけるのだろうか。私には少しやっていける自信がない……。
断ろうと顔を上げた瞬間、こちらの顔を見つめていたタイの顔と目線が合う。タイはまるで縋るように私を見ていた。私がいないと自分のやりたい探検隊にすらなれない。そんな風に目が訴えかけてきていた。……うう。私はそういう目に弱い。……それに、タイは強いと言ってもそれは臆病さを克服できたらという条件付きだ。臆病な一面を取っ払うことができなければ、先ほどのように悪いポケモンにいいように扱われてしまうのが目に見えている。臆病さを克服するまでは私のような第三者が付いていてあげなければいけないのかもしれない。仕方ないなとため息を吐く。そのため息にタイは断られるかと思ったのか肩をびくりと震わせた。
行く当てはない。これからどうすればいいのかもわからない。そして目の前にはそんな私のことを必要としてくれる人がいた。答えは一つしかなかった。
こくり、と私が頷くと、タイは信じられないとでも言いたげに目を見開く。
「え? ホント? 一緒に探検隊やってくれるの?」
断られると考えていたのか、私の承諾の申し出にタイはイマイチ実感を得ていなかったようだったけど、そのうち理解したのか体をふるふると震わせる。
「や、やったぁ! ありがとう! ボクたち絶対いいコンビになるよ! よろしくね!」
そう言って手を掴まれてぶんぶんとふられる。よっぽど嬉しかったのだろうか。
「まずはプクリンのところに行って弟子入りしよう。そこで一人前の探検隊になるための修行をするんだ」
そういってタイは気合を入れるように自分の赤いほっぺをぺちりと叩く。
「修行はとても大変そうだけど……、でも一緒に頑張ろうね!」