襲ってくるポケモンたちを退け、洞窟の奥底へ私たちは到着する。前方を見て見ればさっきの二人組がそこに居た。
「お……おい!」
あまり強気な声を出すのに慣れていないのだろうか、タイは少し震えた声で二人の背中に声をかける。その声に私たちがいることに気がついたのか、二人はこちらへと振り返った。
「おやおや。誰かと思えば弱虫くんじゃないか」
図星だったのか、タイは悔しそうに顔を歪ませた。でも、それではダメだと思ったのか、勇気を振り絞るように再度声をあげる。
「ぬ…盗んだものを……盗んだものを返してよ! あれはボクにとってとても大事な宝物なんだ!」
タイが勇気を振り絞って声を出したにも関わらず、二人はまだニヤニヤと笑い続ける。いや、それどころかさっきよりも悪い笑みが更に増していた。
「ほう、宝物。やっぱりあれはお宝なんだな?」
「思ったよりも値打ちがあるかもしれないな。どこかに売っぱらえば高い値が着くかもしれない。余計返せなくなったぜ」
売っぱらうという言葉にタイの身体が震えた。人から物を盗んでおいて、その本人の目の前で売る算段をするとは何という悪党だろうか。
「酷いよ! 返してよ!」
「返して欲しければ腕ずくで来るんだな!」
そう言ったズバットが突進してくる。何とかすんでのところで避けた私は体勢を立て直し、私に躱されてバランスを崩したズバット目掛けて泥をかけた。泥を掛けられ更にバランスを崩すズバット。その隙をタイは見逃さなかった。渾身の電気ショックをズバットに浴びせかける。効果は抜群。耐えきれなかったズバットは地面に倒れ伏した。
「お前らァ!」
怒り狂ったドガースの怒りの矛先がこちらに向けられる。ドガースの突進にさすがに連続は避けられず、その突進を体で受ける羽目になった。
同じくらいの大きさの相手に突進されればひとたまりもない。その反動で私は後方に吹っ飛んで、着地のダメージが体全体に伝わる。
「っ!」
タイの焦った声が聞こえる。痛みで霞む視界の中、なんとか大丈夫だと伝えるとタイはほっとしたような表情を見せた。でもそれは一瞬で、すぐに怒りの表情に変わったかと思えば、突進し隙ができたドガースに向かってまたきつい電気ショックを浴びせかけていた。タイの電気ショックを食らって地面に落ちるドガース。……なんだ、憶病な奴だと思ってたけど、普通に強いじゃん。
痛みが引いてきた体を引きずってタイの近くへ戻る。地面に伏せているズバットとドガースはしばらくの間痛がっていたあと、お約束のようなセリフを残してさっさと逃げ出していった。適当に放り投げられたものをみてタイは安堵したような笑みを浮かべる。あれは何だろう。石?
「遺跡の欠片だ…! 良かったぁ……。ボク、ホントに取り返すことができたんだ……」
放り投げられたそれを大事そうに抱えてからタイは私に向き直った。
「これもすべてはが手伝ってくれたおかげだよ。ありがとう! !」
そう言って満面の笑みを浮かべるタイ。でも殆どはタイが一人であのズバットやドガースを退治したようなものだったけど。あまり私は役立ってなかったような気がする。それでも、タイが本当に嬉しそうに笑顔をこちらに向けるものだから、私はなんだか恥ずかしくって照れ臭くって、小声で「どういたしまして」と呟いたのだった。