「あ、あったよ!」
空に浮かぶ大地へと繋がる柱を私たちは調べ続けていた。
あの大地へと行ける手がかりは無いのか。それを探るために。
「あそこに裂け目が見える! ここから入っていけそうだよ」
ちょうどその時、ぼこぼこと明いている穴からプシュッと煙がタイの顔に掛かる。
「わわっ! ……ってこれ、水蒸気?」
水蒸気なら、体に害はないだろう。
だけど、あんなに流れ落ちる水が噴き出すわけでもなく、代わりに出てくるのは水蒸気。ということは……。
「もしかして、この中はすごく熱かったりするのかなあ」
そうなのかも。
水ポケモンだけど、蒸し暑いのは苦手だ。きっと、この中は不思議のダンジョンになっているのだろうし、あんなに高い場所が目的地なのだから、きっと長丁場になるだろう。
「でも、躊躇なんかしてられないよね」
頷く。
私の見つめるタイの目は輝いていた。
この先に待ち受けるのだろう前人未踏の土地への憧れで今胸がいっぱいなのだろう。
タイはすう、と息を吸って、長く息を吐いた。そして自分のほっぺをぺちんと叩く。
「よし! 行こう! あの上へ!」
底から響くような音が聞こえる。
「ん? なんだろう」
予想通り蒸し暑い熱水の洞窟。流れる汗を拭いながら進んだ先で、私たちは音を聞く。
また音が。
「……今、何か聞こえた? 気のせい、なのかな」
音が聞こえた気はする。でも、その音の正体までは分からない。
「よくわからないけど、とにかくあとちょっとだし、頑張ろうよ」
タイがそう言い終わるか分からない程で、またまた音が響く。グオオオオオォと、今度はハッキリ聞こえた。
「やっぱり気のせいじゃない! 何か叫び声のようにも聞こえたけど、何の音なんだろう」
私は首を振る。
まるで唸るような音だった。でも依然としてその正体はつかめない。
正体の判らないものというものは、恐怖を生む。正体が分からないということは、理解が及ばないからだ。理解が出来ないものは怖い。だから恐怖が生まれる。
チラ、とタイを盗み見る。
その顔には恐怖は見えない。ワクワクとドキドキを内包した明るい表情でこの先を見据えている。
本当に強くなった。
この程度じゃもう怖いと思わなくなったのかな。
「どうしたの? 考え事?」
私は首を振る。
「本当? 長かったし、疲れてきてるのかもね。でもあと少しだと思うし、何が待ち受けてるか分からなくても、一緒に勇気を出していこう!」
しかもこうやって鼓舞することすらできるようになっちゃって。
自分も気合を入れなおす。
あと少し。
その少しを越えれば、ユクシーに出会えるかもしれない。
そして記憶をなくす前のことも分かるかもしれない。
……そういえば、タイにはまだこのことを話していなかった。
「ん? なに、? ……ボクに話してなかったこと?」
記憶を消すユクシー。感じていたデジャヴ。
もしかすると、自分がここに来て、ユクシーに記憶を消されたのかもしれないこと。
全部話した。
「そんなこと考えてたんだ、……」
タイは黙る。
怒った、のかな。こんな大事なこと黙ってて。
沈黙が重たい。
「うーん……」
タイの少しの声も自分の胸に刺さるようだった。
罪悪感。重くのしかかるものはそれだった。
黙ってたのは私なのに、タイに嫌われたくない、なんて思ってしまう。
自分勝手だ、私。
「それなら! ますますこの上に行かないきゃ!」
呆気にとられた。
「行って、ユクシーに真実を聞くんだよ! 失った記憶のこと、ユクシーに会えばわかるかもしれないんでしょ? なら早く行こう! この上に!」
ああ、そうだった。
タイはこういう子なんだ。
細かいことを責めたりしない。人のことを考えられる子。
私は笑う。自然と零れた笑みだった。
暖かい何かが私の胸を満たしていく。
それに釣られるように私はうん、と頷くのだった。