居ても立っても居られなくなったのか、リーシュが走り出す。
「リーシュ?」
「こうしちゃいられねえ! おいら、ギルドのみんなに知らせて来るよ! おめえたちは頑張って先を目指してくれ!」
その内に彼の姿が見えなくなった。結構な早さだったな……。
「リーシュって足があんなに早かったんだね……」
苦笑するタイ。あはは、と私も笑い返した。
この遠征の前から、ギルドのみんなの多くの一面を知っていっている気がする。それがなんだか、少しずつギルドに自分たちが溶け込んでいっていることのようで、嬉しい。自然と笑みが零れてしまう。
「よし、それじゃあ行こうか! 霧の湖を目指して!」
「ククッ、待ちなっ」
突然割り込んできた声。リーシュが去った方向ではない。
この声の主には散々辛酸を舐めさせられてきた。苦虫を潰すような思いで、っ声の方を振り向けば、案の定彼奴等がいる。
「ご苦労だったな。謎さえ解いてくれれば、もうオマエたちに用はねえ」
下劣な笑みを浮かべて此方を見るドクローズ。
姿を見ないと思っていたら、私たちが霧の湖を見つけるまで後を着けて、見つけたら宝を横取りする。そういう算段だったんだろう。
「お前たちは、やっぱり最初からこれが目的で遠征隊に入ったんだな!」
「ケッ、当たり前じゃねえか!」
「悪いがオマエたちには……、ここでくたばってもらおう」
ジリ、とにじり寄る。
冷たい冷や汗が背中を伝っていった。
「そ……れはっ、こっちの台詞だ! お前たちを霧の湖に行かせなんかしない!」
「クククククッ、もう忘れたのか? 前の対決を」
ビルがニヤリと笑う。
「オマエたちは、オレさまとドニーの毒ガススペシャルコンボに敗れているってことを!」
「ううっ……」
あの悪臭を思い出す。それだけで身が竦むような気がした。
アレを使われてしまえば、私たちに対抗する手立ては無い。
「勝負は既に見えているのだ。では、食らうがいい!」
八方塞がりか。そう思って強く目を閉じる。
「あ~ん、まってえ~!」
「へ?」
間の抜けた声が聞こえた・
「な、なんだ?」
全然空気を読まないその声に、ドクローズも毒気を抜かれたような表情をしている。
「セカイイチ~! セカイイチ~!」
こんなにもセカイイチに肩入れしているポケモンを私は一人しか知らない。
おやかたさまだ。
「あれ? キミたち、みんないっしょだったんだねぇ」
「お、おやかたさま。ここで何をしているのです?」
「ん? なにって、もりをさんぽしてたらね、セカイイチがボクからコロコロにげだしちゃったの……。んで、それをおいかけてたら、ここにきちゃった、ってワケ!」
キャッキャと笑うおやかたさま。
先ほどの切羽詰まったような空気から一転、ふわふわとした空気に変わってしまったことに私だけでなく、おやかたさまを除いた全員が渋い顔をしている。
「そうだ! キミたち、こんなところでサボってちゃあいけないよ?」
「えっ?」
「キミたちのおしごとはきりのみずうみをみつけることでしょ? ほら、さきにいかなくちゃ」
私たちは言葉を失う。
いや、行こうとしてたんだけど。このドクローズのせいで先に進めなかった、というか……。
タイも困ったような顔で唸った。
「……でも」
「おやかたのいうことがきけないの? ぷんぷん」
私たちは黙る。
おやかたさまの実力は前の地震未遂で嫌というほど身に染みている。
ここはちゃんと言う事に従ったほうがよさそうだ。タイにそう促せば消化不良そうな顔だったけど、了承してくれた。
「……うん。行こうか、」
「がんばってね~!」
ぶんぶんと大きく手を振るおやかたさま。その温かい目に見送られながら、私たちは歩きだした。
あ、でも、おやかたさまのお陰で霧の湖の探索を続けられるなあ。
まさか、そのためにおやかたさまが……? でも、思いつくおやかたさまの顔はふにゃふにゃとしたいつものあれで。すぐに無いな、と考え直した。
そういえば、おやかたさまをドクローズが居るところに置いて行ってしまったけれど、大丈夫だろうか。遠征隊を自分の欲望のために利用しようとした連中だ。用済みとなれば、おやかたさまですら襲いそうだけど……。まあ、おやかたさまだし。返り討ちにしているかもしれない。なぜだかそんな気がした。