「うわあ、ここから先は海だぁ!」
 切り立った断崖。その高さに私たち三人は目を丸くする。
 そう、三人。
 今は遠征中。遠征に行くことになって、私たちはそれぞれチーム分けをされた。
 私たちのチームは、私、タイ、そしてエリクだった。
 霧の湖に行くにはあまりに距離があるらしく、その旅路の途中にベースキャンプを設置してとりあえずはそこを目指すとのこと。そして、みんなで移動すると機動性が欠けるので、それぞれチーム分けして各自で行くとのことらしい。
 それで私たちは先輩の(といっても、私たちからするとみんな先輩だけど)、ビッパのエリクと一緒にチーム分けをされた、というわけだ。

「えっと、不思議な地図を見て見よう」
 タイがそう言って地図を開く。指で現在地を指して、
「今いる場所がここで……、みんなと落ち合うベースキャンプがここだから……、とりあえずはここまで抜けるのを目標に頑張ってみようか」
「賛成でゲス」
 私も頷く。
 タイは地図をトレジャーバックに締まって、「じゃあ行こう!」と元気よく歩きだした。
 いつの間にか、このチームでリーダーシップを取っているのは先輩のエリクではなく、タイだった。
 きっと探検でワクワクする気持ちがそうさせていると思うのだが、ちょっと前までを思い出せばあんなに臆病だったあのタイがこうやって先頭を走っている姿を見ると、なんだか感慨深い気持ちになる。やっぱり、少しずつたくましくなってるんだなあ。
 しかも、戦闘もすごく強いしエリク、怖がらないといいけど……、アハハ……。そう思って冷や汗を流した。


 その後、不思議のダンジョンと化した洞穴をなんとか抜ける。
 なんとか先ほど話していた地図の場所には辿り着いたのだろうか。
「やっと抜けたでゲス……」
「でも、地図を見る限りベースキャンプまではまだまだみたい」
 そう言って地図を見る。タイが説明してくれたけど、ベースキャンプが設営された場所から現在の位置はまだ離れている。でも先ほどよりは確実に近づいてきてるようだ。
「大分近くまで来たって感じでゲスね」
「あと一息だよ。この山を越えればベースキャンプに行けるね」
 ちょうどその時、間の抜けたぐぅ~という音が私たちの間で流れる。何の音?と顔を見合わせた瞬間、もう無理だという様にエリクが地面に座り込んだ。
「うぐ……。もう限界でゲスぅ……。お腹が鳴ったでゲス……」
 エリクのお腹の音だったのか。そう納得すると、再度ぐぅ~となる。今度はエリクじゃなくて、タイの方から。そして、また。今度は私のお腹から。
「アハハ、ボクたちも鳴っちゃったね」
 そう言ってタイは空を見上げる。つられて見上げれば、オレンジ色の空が見えた。でも、その端は少しずつ暗く塗りつぶされていて、夜が近いのだと悟る。
「今、ここを越えようとすると夜中になっちゃうかもしれない。今日はここまでにして、一晩休もっか」
 私たちは頷く。
 ここまでずっと歩いて戦闘をしてきた。そろそろ体が疲れたと文句を言いだすころだ。休むのは大賛成だった。
「それじゃあご飯にしよう!」
 エリクが今日一番の歓声を上げた。


 そして、次の日もひたすら歩いた。
 私たちが越えようとした山、ツノ山は怖かった。中でも、銀色の風を覚えたモルフォンなんて、しばらくはその姿を見たくない程に。
 部屋全体に効果があるっておかしいよ、何なのアレ。姿も見えないほどの先から繰り出される攻撃程怖いものは無いのだと感じた。トラウマだ。部屋全体技嫌い。
 そして何よりもだ、そんな強敵をものともせず電気技で蹴散らしていくタイが何よりも怖かった。
 あれ、彼こんなに怖かったっけ? と思わず倒されていったポケモンたちに合掌したくなるほどの高威力を見せつけられ、もうタイ一人でいいんじゃないかな。と思ったほどだ。
 道中、エリクが震えていたのをタイが心配そうに見ていたが、たぶん、いや絶対怖がってるのタイのことだと思う。心配が命中してしまったことに頭を抱えつつも、なんとか私たちはツノ山を越えていったのである。