それからというもの、私たちは身を粉にして働いた。
 掲示板に掲載される依頼をこなし、見張り番を頼まれたら二つ返事で了承し、遠征メンバーに選ばれるべく、毎日働いた。
 そんなある日、朝礼で驚愕の事実を知る。

「今日は仕事を始める前に新しい仲間を紹介するよ」
 ざわつくギルドの面々。ギルドに弟子入りするのは珍しいと前に言われていたから、みんな気になるんだろうな。
「おーいこっちにきてくれ!」
 ウタがそう言うと、ギルドに突如悪臭が広がる。思わず鼻を覆いたくなるほどのニオイ。このニオイには覚えがある。というか嫌な覚えしかない。
「こ、このニオイ……。それにアイツらは!」
 タイが声を上げる。ウタがきょとんとした顔でタイを見た。それにしてもウタとおやかたさまはケロッとしているが、このニオイ平気なんだろうか。
「ドクローズの三匹が新たな仲間だ。タイ、お前はドクローズの皆さんと顔見知りなのか?」
「顔見知りもなにもっ」
「それなら話は早い。この三匹は弟子ではなく、今回遠征するための助っ人として参加してもらうことになったのだ」
 タイが驚愕の表情に変わった。信じられないという顔でウタとドクローズの面々を交互に見ている。そう言っている自分も驚いてはいた。この三匹が助っ人なんて……、絶対邪魔しかしてこない、そんな気しかしない。
 そんなこともつゆしらず、いやあのニヤニヤッぷりは分かっててやってるんだろうけど、ドクローズの面々が自己紹介をする。どうやらスカタンクがビル、ドガースがドニー、ズバットがランドと名乗ったが、正直頭に入らなかった。
「これはおやかたさまの決定でな。遠征にこの三匹が居てくれた方が戦力になると判断された。ただ、いきなり一緒に行動してもチームワークに支障がでるとのことで、遠征までの数日間、共に生活してもらうことになったのだ」
 驚愕の表情がゲッソリとした顔に変わった。そりゃそうだろう。自分のトラウマの元凶と一緒に数日間過ごしたうえ、遠征まで一緒になると思うと私もこんな表情になってしまう。
 私は励ますようにタイの肩をポンポンと叩いた。
「短い間だが、みんな仲良くしてやってくれ」
 見渡せばギルドのみんなもやつれた顔をしていた。あのニオイが原因だろうか。いつもの号令もみんなの声に元気がない。
「こんな臭うのによォ……、元気だせって方がムリ……」
 コウがそう異議を唱えたその時、ゴゴゴ……という音と共にギルドが揺れる。
 それと一緒にウタが慌て始めた。
「いかん! おやかたさまのいつもの怒りが……」
 え。おやかたさまが怒っただけでこんな天変地異みたいなのが起きるの? 
「おやかたさまを怒らせてはとんでもないことにっ! みんな無理にでも元気をだすんだよ!」
 みんなもとんでもないことをしてしまったという様に顔を真っ青にして無理矢理大声で号令を上げる。途端、先ほどの揺れが嘘のようにピタッと止まった。
 そして、朝礼が終わると同時に逃げるように仕事に行き出すみんな。そんな様子を呆然と見つめる。
 ……おやかたさまって、いったい何者なの……?



 ドクローズがギルドの一員になってから数日。
 私たちはウタに呼び止められた。
「今日はちょっと食料を調達してきてくれないか?」
 タイが首を傾げる。ウタ曰く、今朝ギルドの食料がごっそり無くなっていたとのこと。
 多くの弟子を抱えるギルドが食糧不足に陥るというのはなんだか不思議な話だ。ギルドのご飯はチリーンのメイが管理している。あのしっかり者のメイがヘマをするだなんて考えられないし……。となると誰かがつまみ食いしたということになるが、ギルドの掟を破った時の恐ろしさを知っている弟子たちが食べるだなんて思えない。残る犯人は新入りのドクローズになる気がするが推測の域を出ないし、これ以上何も考えないことにした。触らぬ神に祟りなし、というやつだ。
「そのうえ、セカイイチだけが全て無くなっていてな。おやかたさまの大好物のセカイイチ……。セカイイチが無いとおやかたさまは……。おやかたさまは……」
 過呼吸のように息を荒々しく吸っては吐いて、震えるウタ。
 よくわからないが、セカイイチが無いとおやかたさまがヤバイらしい。先日、怒りかけただけで地震が起きたくらいだから、マジギレしたおやかたさまはそりゃあもうヤバイのだろう。
「頼む、セカイイチを取ってきてくれ」
 この世の終わりだという顔をするウタに、私たちは固唾を飲みつつ承諾する。
「いいかい? これはカンタンなようだが、大事な仕事だ。何しろおやかたさまの……」
 黙りこくってしまったウタに、タイが慌てて声を明るくして話しかける。
「と、とってくればいいんだよね! 大丈夫、ボクらに任せてよ! ね、!」
 私はブンブンと首を縦に振る。そんな私たちの様子に、救いを求めるようにウタが顔を上げた。
「しっかり頼むぞ。お前たちにギルドの未来がかかっているのだからな!」
「うん!」
 そんなこんなでギルドの未来なんて言う大きいものを私たちの背中に乗せられつつ、私たちは出発した。