と引きはがされて二匹に連れてこられる。
にやにやと気味の悪い笑みに囲まれて、いつか感じた恐怖を思い出すようで嫌だった。
「悪いことは言わねえよ。探検隊は諦めな」
ドガースが言う。思わずボクは大声を上げていた。
「なんで!? 嫌だよ!」
「だってオマエ臆病じゃねえか。臆病モンに探検隊はムリムリ」
ズバットが笑った。ドガースも釣られて笑う。それが悔しくて、悔しくて……、ボクは怖かったけど、言い返す。
「確かにボクは弱虫だけど……、でもそんな自分に負けないよう修行してるんだ! それでギルドの遠征メンバーにも選んでもらえるよう頑張ってるんだから!」
ドガースがにやりと笑う。
「ほう、遠征があるのか」
「でも頑張ればいいってもんじゃないぜ。実力がなけりゃ選ばれないんだろ? その遠征隊にはさ」
「結局はさ、実力なんだよ。じ、つ、りょ、く」
そう言って笑う二匹に、今までのボクらの頑張りを否定されたようで、カァっと頭に血が上る。
「なんだよ! 偉そうに! 実力だって言うけど、そっちだってボクらに負けるくらい弱かったじゃないか!」
そうだ。ボクらはコイツらに一度勝ってるんだ。だから、実力を語るこの二匹にバカにされたって別に気にする必要なんて無いんだ。
だけど、ボクの言葉に二匹は臆することなく、むしろヘラヘラとしたその態度を崩すことはなかった。なんだろう、この余裕は。
「そりゃ、あん時はアニキが居なかったからな」
「あ、アニキ?」
誰だろうそれは。
ズバットは誇らしげに笑う。
「へへっ、そうだ。我が探検隊ドクローズは全部で三匹」
「そのリーダー、つまりアニキがすごい実力者でな。ハッキリ言うとものすごく強いのだ」
「アニキさえ居れば、オマエたちなんか一捻りだぜ」
ズバットがそう言った瞬間、途端途轍もない悪臭がギルドに臭い始める。臭ったこともないようなすごいニオイ。思わず自分の鼻を覆う。
「おっ、噂をすればこの匂い!」
「アニキのお出ましだぜ」
このニオイの主が二匹の言うアニキなの?
ニオイの主を探せば、梯子付近に紫色をした大柄なポケモンがそこにいた。あれは、スカタンク? ニオイの主というのも納得がいく。
スカタンクは梯子から掲示板の方へと歩いていく。
まずい! そっちにはが居たはず!
そう思って駆け出そうとするもそれを察知していた二匹がボクの足止めをする。くそう、やめてよ。が危ないんだよ!
そんな願いも虚しく、スカタンクが掲示板に辿り着く。そして、その前に立っていたを、軽々と、「邪魔だ」の一言で蹴りつけて、掲示板の前に居座った。蹴飛ばされたはどさりと壁に勢いよくぶつかって、そのまま起きてこない。ぴくりとも動かない。
「ッッ!!」
じたばたと暴れてなんとか二匹の包囲網を抜けだす。でも二匹にとってもボクなんてもうどうでもいいみたいで、アニキと呼んだスカタンクに合流しては、美味しい依頼は無かったとかなんやら話していたみたいだけどボクにはそれを聞く余裕がなかった。
が無事なのかどうかだけがボクにとっては重要だった。
不覚、だった。
異臭には気が付いていた。でも、連れていかれたタイが心配で、ずっとそっちの方しか気にしていなかったから、その異臭の主に背後を取られていたなんて気が付かなくって、気づいた時にはすでに遅く全身に走る痛みに呻くしかできなかった。
目の前が真っ白になる感覚の中、ただひたすら自分の名前を呼ぶ声だけが聞こえる。痛む体に鞭打ちつつ、何とか起き上がれば泣きそうな顔をしている彼と目が合った。
「っ!」
その顔が今すぐにも泣きそうな顔だったから、微笑んで無事を知らせる。少しずつ痛みも引いてきた。なんとか体も動かせそうだ。
「良かった……」
タイは安心してくれたようだ。
平静を取り戻したタイに何があったのか聞いてみれば、あの二匹をまとめるアニキというポケモンに突然蹴られた、というのが事のあらましらしい。
「乱暴な奴だったね……。……ボク、アイツを前にして何にもできなかった。がやられたっていうのに、情けないな……。やっぱり、ボクって弱虫だ……」
そういって塞ぎ込むタイ。私は慌てて首を振る。キミは弱虫なんかじゃないよ。だって、私のこと心配してくれてた。曖昧な意識の中でも、私の名前を呼ぶキミの声は聞こえてた。
「……励ましてくれてありがとう。でも、やっぱりボクは弱虫だよ。……けど、ボクが弱虫なのは今更で、勇気がなくても頑張ろうって決めたんだ。だから、こんなことで挫けたりなんかしない。ボク、元気出してくよ」
タイはもう一度ありがとう、と私に礼を言った。
私は気にしないでと首を振る。タイがはは、と笑った。
「とりあえずは仕事だね! 今日は掲示板の仕事をやっていこうよ! それで遠征メンバーに選んでもらって、あいつらに見返してやるんだ!」
私は頷く。何がともあれ、タイが元気になってくれてよかった。彼が元気になってくれないと、何も始まらないのだから。
「、一緒に頑張ろうね!」
私はタイと一緒におー!と掛け声をあげるのだった。