温泉で疲れを癒した私たちはホカホカの体でギルドに帰った。
ギルドに帰れば、報告を心待ちにしていたらしいウタにすぐに私たちは捕まる。そして私たちはあの滝の裏に洞窟が隠されていたこと。大きな宝石と仕掛け。そして温泉まで流されてしまったことをすべて話した。勿論残念ながら宝石を持ち帰られなかったことも正直に話した。
「なるほどなるほど……そんなことがあったのか」
「宝石は取ってこれなかったし、何も収穫はなかったけどね……」
「いやいやいや! そんなことないよ! これは大発見だよ!」
興奮したようなウタの声にタイが目を輝かせる。
「ホ、ホント!?」
「ホントだ。だってあそこの滝の裏が洞窟になってるなんて、今まで誰も知らなかった訳だし」
私はその言葉に首をひねる。
本当にあそこの滝の裏に洞窟があるなんて、誰も知らなかったのだろうか……。それでは私が見たあの映像は一体何なのだろう。
あの時見たポケモンの影……、あのシルエット……、どこか見覚えがあった。あのシルエットは、間違いないプクリンだった。
「? どうしたの?」
私はあの時見た映像について話した。あの滝に突っ込んでいった影。あれはプクリンなのではないかと。
「ええ!? あの滝には実は昔ユウが行ったことあるかもしれないって!」
あの見たプクリンがおやかたさまであるウタなのかはわからない。でも、確かにあの影はおやかたさまであったような気がするのだ。v
「いやいやいやいや! それはありえないよ! それだったらおやかたさまはあそこを調べてこいなんて言わないハズだよ?」
この調査依頼はおやかたさまからだったのか。それなら確かに一度行ったことがあるおやかたさまがこの調査を命じるのはおかしい。でもそれならあの影はなんだったというのだろう。私はおやかたさまに確かめてほしいとウタに訴える。
「……うーん、そこまで言うならおやかたさまに確認してみるけど……。」
微妙そうな顔をウタはしている。きっと今頃、自分の手柄を他の人のものにしようとしている自分を妙な奴だとか考えているのかもしれない。
ウタはおやかたさまの部屋に入っていく。そしてしばらくしたのちに帰ってきた。
「それで、どうだったの?」
「おやかたさまに聞いたらしばらく悩んで……そのあと……、「おもいで、おもいで、たあーーーーっ!」……とかやってそれで、「ああ! よく考えたらボク、行ったことあるかも!」と仰った」
ウタはおやかたさまのモノマネをはさみながら言う。ウタ、モノマネ上手いな。
「つまりはの思った通り、滝壺の洞窟にはすでに言ってたみたいだな」
「はぁ~、そっかあ。ガッカリ……」
新発見ではなかったという事実にタイは肩を落とす。
「こんなことだったらユウも最初から言ってくれれば良かったのに……」
「おやかたさまは妖精のようなお方だからな……。ワタシも何を考えてるのかいまいちよくわからないのだ」
ウタが疲れ気味の表情をした。おそらくずっと一緒にいるのであろうウタがこう言うのだ。おやかたさまの考えていることが完全に分かる人なんてきっとどこにもいないんだろう。
「まあ、今回は残念だったな。また明日から頑張ってくれ」
そう言ってこの場はお開きになった。私はまだ肩を落としたままのタイを引き摺りながら部屋へと帰ったのであった。
「今日はいろいろあったね」
部屋に帰ったタイはようやく復活したのか疲れ気味の声を出した。
今日は本当にいろいろあった。そのほとんどが結局おやかたさまにふりまわされたようなものだったけど。
「でもボク今日はすごく楽しかったよ! そりゃあがっかりもしたけど……、でもボク今回初めての探検で、もうワクワクドキドキだったんだ!」
タイは今日ひたすら目を輝かせていた。初めての探検にワクワクドキドキだったのが見ているこちらにも伝わってきたほどだった。
「やっぱりボク探検隊になってよかったって思ったよ。そしていつかはこの遺跡の欠片の秘密を解く、それがボクの夢なんだ」
タイは自身のベッドに遺跡の欠片を置き、それを見つめる。
「もし本当に夢が叶ったら……、ボクもう嬉しすぎて死んじゃうかもね!」
タイの冗談に二人して笑った。タイは遺跡の欠片をバッグへと戻す。
「でも、ありがとう」
タイがこちらに微笑むから、私は首を傾げた。
突然お礼なんて、何かしたかな。
「こうして探検できるのものお陰だよ。あのとき……、滝に飛び込むとき、弱虫なボクでもあそこで勇気を持てたのは、が一緒にそばに居てくれたからだよ。、本当にありがとうね」
そう言って微笑む。そ、そうかな。なんだか顔が熱くなる。
「そ、そうだ! そう言えばボク思ったんだけど……、のめまいが起きるときって、いつも何かを触った時に起きてる気がするんだけど」
私は顔の熱を引かせるようにブンブンと振った。
少し冷えてきた頭で思い出す。私のあのめまい。最初に起きた時はリンゴを落としたリルちゃんに手渡したとき。二回目はロキと肩がぶつかった時。そして今回は……、勢いの強い滝に近づいて飛び散る水滴に当たっていた……。確かに何か触れた後にあのめまいが起きている……。何かに触ることでそれに関係するものが見える。そういうことなのかな。
「あともう一つ。リルを助けに行ったときは未来が見えたけど、今回は洞窟に行ったユウが見えたんだよね? ってことは、今回は過去に起こったことが見えたんだ」
そういえばそうだ。私のめまいは未来だけじゃなく、過去も見ることができるのか。
「つまり、は何かに触ることでその過去や未来が見える。そういう特殊な能力を持っているんだよ! これってもしかしたらすごいことじゃない? ポケモンを助けたりとか、探検だけじゃないくいろいろなことにも役立つ能力だよ!」
凄いよ! と笑うタイ。確かに凄い能力かもしれないけど……、何かに触ったからと言ってそれが自由に見れる訳ではないし、毎回めまいが起きるのもあまり歓迎されたものじゃないなぁ。もっと自分でこの能力を自由に扱えればいいのに。
「おいオマエたち! おやかたさまがお呼びだ」
私たちは飛び上がる。いつの間にかウタが部屋の前に立っていた。
おやかたさまが呼んでるなんて、何の用なんだろう。私たちは顔を見合わせながら部屋を後にした。
おやかたさまの部屋の中。私たちはウタにつられておやかたさまと謁見している。
「おやかたさま、チームペイントを連れてきました」
その声におやかたさまは振り返る。その顔にはいつも通りの笑顔だった。
「やあ! キミたち、きょうはタイヘンだったね! でも、キミたちのかつやくはちゃんとみてるからあんしんしてね!」
大変といってもおやかたさまに振り回された結果、みたいなものだったんだけど……、私とタイは苦笑いを浮かべた。
「それで、ここからほんだいなんだけど。ちかぢかえんせいをするよていがあるんだよ」
「え、遠征!?」
タイが驚きの声を上げる。遠征ってことは、どこか遠い所へ行くのだろうか。
「ギルドをあげてとおくまでたんけんにいくんだ。どうぜんごきんじょをたんけんするのとはワケがちがうから……、じゅんびもそれなりにしていく。ギルドのなかからメンバーをえらんでえんせいするんだ」
へぇ~。ってことは遠征に行ける人と行けない人がいるのか。
「いつもならしんでしはえんせいメンバーにいれたりしないんだけど……。でもキミたちすごいがんばってるじゃない!? だからこんかいはとくべつに、キミたちもえんせいメンバーのこうほにいれることにしたんだよ!」
「えっ!? ほ、本当に!」
驚く私たちにウタが叱咤する。まだ候補であって、選ばれた訳ではない。
「遠征までにはまだ時間がある。それまでにいい働きをしなければ、メンバーには選ばれないからな」
なるほど、選抜基準はギルド内での働きぶりらしい。なら、ぜひ選ばれるよう頑張らないといけない。
「ボクはキミたちならだいじょうぶだとしんじてるよ! がんばってね!」
私たちは返事をする。遠征かぁと身に染みて考えていれば、タイがキラキラとした瞳で見つめてきた。
「遠征だって! ボク急にドキドキしてきたよ! 絶対にメンバーに選ばれるように頑張ろうね!」
その言葉に力強く頷く。せっかくの機会だ。遠征メンバーに選ばれるよう頑張らないと!