「ここが何か秘密があるという滝か……」
ギルドから1時間ほど。ようやくたどり着いた滝にタイは恐る恐ると近づいていく。
「わわっ、水の勢いがすごいよ! も滝のそばに来てみて」
呼ばれるままに滝に近づいてみれば、ドドドという大きな音共に勢いよく飛び散る水しぶきが顔や体にかかる。タイが言う様に本当に勢いが強い。今にも吹き飛ばされてしまいそうな錯覚に陥る。
「ね、すごいよね。もしこの滝に打たれたらバラバラになってしまいそうだよね。こんなに勢いがあるなんて思わなかったよ。でもこれじゃあ一体どこから調べれば良いんだろう……」
こんなに勢いが強ければ近づいて調査することもままならない。でも今回の仕事はこの滝の調査だ。ここに隠されている秘密を明かせなければ仕事は達成できない。何より、初めての探検隊らしい仕事を失敗するなんてそれだけは嫌だった。
その時だった。ぐらりと目の前の景色が揺らぐ。そのことに驚く間もなくぐわんぐわんと視界がどんどん揺れ始めて気持ちが悪い。これ、前にもあった……。ロキの事件の時の、あのめまいだ……。
一気に目の前が暗くなる。そして少しの後、視界が開けた。ここは……この滝の前? でも何かが違う。タイがいない。私もいない。でも誰かがいる。あの滝の前に立っているのは、一体誰なんだろう。その影はキョロキョロと周りを見渡した後、意を決したように滝へと飛び込んでいく。そしてその影は滝の勢いに落とされることなく、滝裏に存在した洞窟へと入っていった。これは、この滝の裏に洞窟が存在しているということ? そう思った瞬間また視界が暗転した。
「? ねえ、大丈夫?」
ハッと気が付けば目の前にタイが居た。さっきの風景とは違う。タイが居る。あの誰かわからない影はどこにも見えなかった。
私は先ほど見た風景をタイに告げることにした。
「ええ~っ! さっきまた夢みたいなものを見て、今度は一匹のポケモンがこの滝に突っ込んでいったんだって!? しかもこの滝の裏側に洞窟へつながる道があるって!!」
タイは驚くが私も見た光景に驚いていた。タイも私もこの滝の勢いは先ほど体験したばかりだ。なのにこんな勢いのある滝に飛び込み無事だったなんて信じられない。しかもその飛び込んだ先には洞窟があるというのだからなおさらだ。
私の見た光景を聞いたタイは困ったような顔をしていた。
「う~ん。滝の勢いはも知っている通りすごいし、もし滝の裏側に何もなくてただの壁だったとしたら……。そんなところにボクたち突っ込んでいったら……。きっとペシャンコだよ?」
タイの言う通りだ。
私の見た風景が真実なんて保証はどこにもない。前回とは違って、今回はただの白昼夢だっていう可能性だってある。そんな信用の無い情報を信じてペシャンコになってしまったら……。考えるだけでも恐ろしい。
「……。それでは……」
まだ困ったような顔のタイが呟く。
「は、どう思ってるの? やっぱりこの滝の奥に、洞窟があると思っているの?」
私は頷いた。確証は無い。先ほど見た夢が真実なんて保証はどこにもない。でも、なぜかはわからないけれど、私の中の何かが、あの風景は本物なのだと確かに語りかけていた。
「……わかった。ボクはを信じる! を信じるよ」
そう言ってタイは滝から離れて位置に着く。走り出そうと息を整えているのを見るに、本当にこの滝に飛び込もうとしているようだ。
タイが、信じてくれた。こんな信頼性もない、ただ私が夢で見たというだけの情報をタイが信じてくれた。なぜかその事実が暖かいものとなって胸に広がる感触を感じた。
私もタイの隣に立って姿勢を整える。隣ではタイがブルブルと震える自分自身に叱咤していた。
「怖がっちゃダメだ! 怖がってあそこに中途半端にぶつかったら、どのみち大けがするんだ。行くなら思いっきりぶつかりに行こう」
私は頷く。タイも頷き返した。
「勇気を……勇気を振り絞るんだ。いい? 行くよ!」
タイがカウントを始める。3、2、1。タイの掛け声とともに私たちは走り出した。
目指すのはいまだ勢いの衰えない滝。その裏に洞窟があると信じて。