「きゃー! やっぱり近くで見るともっと可愛いですわ!」
「アリス落ち着いて、さんがびっくりしてるじゃないですか」
びっくりもびっくり。何で私がいつも寝ているあの部屋ではなく女子部屋に居るのか。どうして私の両隣にチリーンのメイとキマワリのアリスに挟まれているのか。
事の発端は少し前に遡る。
「タイ、をお借りしてもよろしくて?」
「え? が了承するならいいけど……」
疲れた体をベッドに横たわらせようとしたその時、私たちの部屋に突然訪れたアリスが先ほどの言葉を述べた。アリスとタイの目線がこちらを向く。いきなりのことで驚いたけど、私に何の用なのだろう。アリスとはこのギルドに入門してから朝礼の時に顔を合わせたりするくらいであまり交流はない。呼び出される心当たりもないが、断る理由もなくて私は大丈夫だとつげると、ずいずいと入ってきたアリスに引っ張られる。わわっ、勢いがすごい。
「それではそういうことですのでをお借りしますわ! 今日一晩まるまるお借りしますけど、明日には返すのでご心配なく!」
そう言ってアリスは私を引っ張っていく。あまりの勢いの良さにタイに行ってきますの一言を言えないうちに女子部屋に入れられたのである。
そして話は冒頭に戻る。
突然の出来事に瞠目していたが、そろそろ落ち着いてきた。とりあえず状況を整理しよう。
場所はギルドの女子部屋。その女子部屋に在籍しているのはアリス、メイ、そして私の三人。そのうち二人はまるで私の両脇を固めるかのように隣を陣取っている。……状況を整理しても全く分かんないな!
「さんったらここにきて困惑してるじゃないですか。アリスのことだから何も説明せずにつれてきちゃったんじゃないですか?」
「あ、忘れてましたわ……。久しぶりの女の子のものだから、すっかり興奮しちゃって」
久しぶりの女の子とはどういうことだろう。
よくわからないけれど、ここに連れてこられたのは理由があるみたいだ。でも、思い当たる節がないなぁと首をひねっていると、アリスががしっと私の肩を掴む。そして意気込んだ。
「ここに第13回ギルド女子会を開催を決定しますわー!」
いえい! とガッツポーズをするアリスに、体を鳴らして盛り上げるメイ。じょ、女子会? 確かにここにいるのはギルドに属する女子全員だ。まだまだ頭は困惑していたが、すとんっと腑に落ちる。だからタイは呼ばれずに私だけが呼ばれたのか。
「ささ、今日の主役はさんなんですから! ここに座ってください!」
そう言うメイに誰も使っていないベッドに誘導される。言われるままに座れば、どこから出したのかお菓子を渡される。あ、青いグミだ。私これ好きなんだよね。
「きゃー! やっぱり女子会にはグミが欠かせませんわ! 手が止まりませんわ~!」
パクパクですわ! と言いながら次々とグミを食べていくアリス。その手には若草グミが。みるみるうちに減っていくアリスのグミにメイが苦言をこぼす。「そんなに食べて太っても知りませんよー」それを聞いた瞬間、アリスはぎょっとした。次のグミに伸ばされた手は止まり、ギギギとなんとか手を放す。それを見たメイはふふんと笑った。なんだろ、コントを見ているようで面白い。
「あら、さん笑いましたね」
「きゃー! 笑った顔も可愛いなんて! ほらほら、うりうり~!」
メイの言葉にアリスがグミを放り出して私の頬をぷにぷにしだす。抵抗せずされるがままになっていると、メイがアリスの頭をぺしりと叩いた。「調子に乗るとすぐにこれなんだから! ごめんなさい、びっくりしましたよね?」なんて言って。
私は気にしてないと伝えると、良い子良い子と今度はメイが私の頭を撫でた。その姿に「わ、私も! なでなでしたいですわー!」とアリスが起き上がった。真夜中だというのにすごい元気だ。
「ふふ、ギルドに女の子が入るのなんて本当に久しぶりですから。一緒に一流の探検隊を目指す女の子同士仲良くしましょうね」
「こんな風にクールに決めてますけど、メイったらギルドに入門した日なんてめちゃくちゃ大はしゃぎしてましたのよ。うるさすぎて全く眠れませんでしたわ」
私の頭をなでなでしながらアリスが言う。
い、意外だ。てっきりメイってお淑やかな女の子だと思ってたけど、意外と違うのかも。ほらだって、今メイはふふ……アリス……? と笑いながらアリスを追い詰めている。対するアリスは私から離れてきゃー! お許しを、ですわー! なんて言って部屋の中でぐるぐると追いかけっこをしていた。この二人本当に仲が良いな。
しばらくしてアリスがメイにつかまって締め上げられた後。ぜえぜえと息を切らしたアリスと満面の笑みで疲れを感じさせないメイがこっちに戻ってくる。メイを怒らせるのはもうこりごりですわ……。とアリスは言うが、きっとまた怒らせる気がする。なぜかそう思った。
「本題から逸れちゃいましたねー。ほらアリス、聞きたいことがあったんでしょう」
「そうでしたわ!」
先ほどまでへとへとだったのはどこへやら。元気を取り戻したアリスがまた私に詰め寄る。聞きたいことって何だろう。
「正直に話してほしいのですわ……。とタイってデキてますの?」
あ、それ私も気になってたんですよね。とメイが言う。それに対して私はまだ頭がアリスの言葉を飲み込めてはいなかった。
デキてるってなんだっけ。えと、付き合ってるって意味で会ってるのかな。それで誰と誰が付き合ってる……て、アリスが聞いたのは私とタイか。そっか……。……………………。ええっ!?
ようやく理解できた私の顔に熱が集まるのを感じる。その熱を振り払うように、否定の意が伝わるように私は勢いよく横に首を振った。つ、付き合う? 私とタイが? いやいやいや、私たちそんな関係じゃないよ。私とタイは……そう! 友達だから!
混乱する頭の中で否定の言葉が次々浮かび上がるが、その言葉はどれも表に出ることはなく、代わりに私の口から出ていく言葉は「あう……」だとか「えっと……」みたいなあやふやな言葉ばかりだった。
「あら違いますの? 二人とも距離が近いからてっきりカップルでギルドに入門したのかと」
か、カップル! その言葉にさらに顔が熱くなる。ブンブンと首を振るが、まだまだ顔が熱いままだ。きっと私の顔は真っ赤っかなのだろう。これは突然の恋バナにびっくりしちゃっただけだ。きっとそうだ。
「あ、でも確かさんとタイさんって知り合ってからすぐに探検隊を結成されたって聞いたような気が」
「なんですって! 、貴方たちの間に一体どんな出会いがありましたの! それを聞き出すまで今日は寝させませんわよー!」
ぐらぐらと掴まれている肩を揺らされる。目がマジだ。これ本当に話さないと寝させてもらえないやつだ。
観念したようにタイとの出会いを話せば、アリスだけじゃなくメイも目をキラキラとさせてこちらを見ていた。さらにさらに質問を重ねて来る二人の姿に私はこの質問攻めに終わりがないことを悟る。ああ、誰か助けて……。心の内で呟くが、皮肉なことに夜はまだまだ長いのであった。
一方その頃、部屋に残るタイ。
「……、大丈夫かなぁ」
相棒の窮地を知らないタイは一人、部屋で呟くのだった。