ロキの事件の後、目立った事件は無く私たちは掲示板に張り出される依頼をこなす日々を送っていた。もう日常と化した朝礼に出席して、掲示板で目ぼしい依頼を見つけては不思議のダンジョンに行き、一日を終える……。そんな毎日を送っていたある日、朝礼後に唐突にコウに話しかけられる。
「オマエたち、今日はこっちを手伝ってくれ!」
 コウに言われるまま付いていくと、ギルドに掘られた穴の前に案内される。ギルドの中を歩くたびにちょっと気になっていた穴。通気口か何かなのかと思っていたけど、違うみたいだ。
「リク! 連れてきたぞ!」
 コウの言葉に振り返るのは、ディグダのリクだった。リクは私たちを見ると、コウに向き直ってお礼を言う。
「今日オマエたちには見張り番をやってもらう!」
 見張り番?と首を傾げる私たち。
「すみません。見張り番はいつも僕の仕事なんですが……。今日はお父さんに掲示板の更新を言いつけられまして、見張り番の仕事が出来ないんです」
 なるほど。いつも見張り番をしているリクが出来なくなったから、私たちにお鉢が回ってきたようだ。
「という訳で、よろしくお願いします。では」
「というワケだ」
 納得がいく私とは対照的にタイはまだ納得がいっていないようだ。
「ええ~っ? 何がどういう訳なのか全然わからないんだけど!」
「うるさーーーーーいっ!! つべこべ言わずに働けーーーーーいっ!!!」
 コウの大声に頭がぐわんぐわんと揺れる。キーンと耳鳴りのする耳を押さえていれば、横に居たタイも目を回していた。
「あ、頭がガンガンするぅ……」
 数分後、ようやく戻ってきたタイはいまだ痛むのか頭を押さえながらコウに振り返った。
「それでボクたちはどうすればいいの?」
「この穴に潜って見張り番をするのだ」
「見張り番?」
 コウが顎で指示した穴を私たちは覗き込む。穴からはくるりとした柔らかそうな弦が伸びていた。
「そう、見張り番だ。ギルドの中に怪しい奴を通すワケにはいかない。だからギルドの入り口のところでどんなポケモンか見極めているのだ。オマエたちもここに来るとき足型を鑑定されただろう?」
「足型? そういえば……」
 私も初めてここに来た時の記憶を思い返す。確か、網目状の柵の上に乗らされて、足型を見られていた。あれが見張り番の仕事だったのかと納得がいった。タイもようやく納得したのか、ポンと手を叩いた。
「入口の前に妙な穴があったけど……、あれが見張り番だったの? 見張り番とこの穴がなにか関係があるの?」
「この穴は見張り穴の下に通じている。リクはいつもこの穴を通って見張り穴の下まで行き、見張り穴に立つ足型を見てどんなポケモンかをワシに教える。それを聞いてワシは怪しいポケモンでなければ入り口を開け、ギルドの中にポケモンを通す……。とまあ、そんなワケだ」
 コウの説明は私たちは頷く。どうやら穴から延びる弦はリクのような土の中を進めないポケモンたちが見張り穴に行くためのロープ的な役割を果たしているようだった。私たちはするりするりと弦を伝って降りていく。穴を下りていくうちに上の方からコウの声が響いた。
「足型を見極める役と、入り口を開ける役を決めるんだぞ! 決めたらさっそく仕事に取り掛かれ! しっかりやるんだぞ!」
 コウの声にタイがこちらを見る。
「役決めだけど……、どっちがどっちやる?」
 正直どっちでもよかった。その旨を伝えると、タイはじゃあボクが入り口を開ける役をやるねと言う。ということは私は足型を見極める役をやるのか。
 なんだか少し不安だ。ポケモンの足型を私が見極められるのだろうか。ドキドキする胸を押さえながら、私たちは見張り穴へと向かった。

「オマエたち、ご苦労だったな」
 見張り番を終えた後、私たちの前でそう述べるのはコウではなくウタだった。どうやら私たちの見張り番の成果を審判しに来たみたいだ。
 私たちはウタの言葉を固唾をのんで待つ。
「見張り番の仕事の出来具合だが……、うん。まあまあかな……」
 微妙そうな面持ちで吐かれたその言葉にタイがずっこける。
「ま、まあまあなの?」
「だって……、ポケモンが誰なのか結構間違えてたし……」
 ウタの言葉にバッとタイがこちらに振り向く。ポケモンの足型を間違えまくったのは私だ。いたたまれなくなって、タイのじとりとした視線から逃げるように顔を反らした。
「だから何回も違う気がするって言ったじゃん!」
 責めるようなタイの言葉に申し訳なく思いつつも、顔を合わせられない。だって、ポケモンの足型なんて分かんないし……、仕方ないじゃん……。でも、自分が間違えて散々な結果になったのは事実だ。私が原因で失敗した。その事実は重く私の肩にのしかかった。
「はいはい、そこまでにしておくんだよ。初めてなんだし、失敗はままあることだ。それじゃあこれが仕事のご褒美だよ」
 ウタはそう言ってご褒美のお金とアイテムを渡してくれた。それを受け取れば今日はもう遅いからご飯を食べて部屋に帰れと促される。私たちは促されるまま食堂に行ったが、会話もないまま食事を終え、部屋に帰った。私たちに間にはやはり言葉はなく、気まずい空気が流れるだけだった。

 部屋に帰った私たちは何をすることもなくベッドに横になる。
 初めての見張り番だったけど、今日は失敗ばっかりだったな。ベッドに体を沈みこませながらそう考える。タイにも怒られてしまったし、結構ショックだ。
「あのさ、
 隣のベッドで寝ているはずのタイが名前を呼ぶ。何かと思って体を起こせば申し訳なさそうな表情をしたタイの顔がそこにあった。
「さっきはああ言っちゃったけど、ウタの言う通り初めてだったし間違えちゃうのも仕方ないよね。ごめん」
 なんだ、さっき私を責めたことを気にしてたのか。しょんぼりとした雰囲気を纏うタイに気にしていないことを伝え、私も謝る。慣れていないとはいえ、間違えたのは私だ。それを受け入れられずに謝りもしなかったのは私も悪かった。私の謝罪を聞きどけたタイは安心したのかホッとした表情へと変わりボクらお互い様だね、と笑った。こうやって笑いあうのは久しぶりにに感じて、私も安心して笑みを返した。
「ボクももう気にしてないよ。今日のボクたちはだめだめだったけど、また明日はどうなってくかわからないしさ。また明日頑張っていこうね」
 その言葉に私は頷く。
 確かに今日はダメな日だった。でも明日はどうなるかはわからない。
 タイの言う通りだ。今日がダメだったのなら、また明日頑張っていこう。
 その決意を胸に私たちの初めての見張り番は終わりを告げたのだった。