下山するとミナくんが通報していてくれたのか、この地域の保安官らしいポケモンが下で待っていた。
「ゴキョウリョク、カンシャイタシマス!」
 そう言ってロキを捕縛していく。どうやらお尋ね者を捕まえた賞金はギルドの方へ送られるようだ。
 でも、そんなことよりも。ジバコイルたちの後ろに居たミナくんがこちらに気が付き駆け寄ってくる。リルちゃんもそんなお兄ちゃんの姿に気が付いたのか、ミナくんのほうへと走り出した。
「リル!」
「お、お兄ちゃん! 怖かったよ~!」
 ミナくんにひしと抱き着き、号泣してしまうリルちゃん。そんなリルちゃんを抱きしめて落ち着かせるように頭を撫でているミナくんはどうやらリルちゃんが怪我をしていないかを確認しているようだった。
「怪我とかないか? 大丈夫か?」
「大丈夫だよ。どこにも怪我はないみたい」
 泣いているリルちゃんの代わりにタイが答える。その言葉にようやくミナくんは安堵したのか、目の端から一粒一粒大きな涙を流し始めた。
「無事で本当に良かった……。本当に……。良かった……!」
 リルちゃんの名前を呼びながら、抱きしめてあげるミナくん。ミナくんとリルちゃんの暖かい兄弟愛を見て心から安堵する。本当に大変だったっけれど、こうやって二人が幸せそうな姿を見れば、頑張った甲斐があるというものだ。
「良かったよね。本当に」
 そう言うタイも笑みを浮かべていた。
「これも、タイさんとさんのお陰です。このご恩は忘れません。本ありがとうございました」
 ミナくんが瞳まだ潤わせながらも、しっかりと私たちをお辞儀をする。
「ほら、リルも」
「うん……」
 ミナくんがそっとリルちゃんを叩く。ミナくんにずっと張り付いていたリルちゃんがそっと前に出た。
「助けてくれてありがとうございます!」
「本当に……本当にありがとうございました!」
 二人してお辞儀をする。
 そして私たちはトゲトゲ山を後にするのだった。

 ギルドに帰れば、突然行動を起こしたことを怒られるかと思っていたが、予想に反して待っていたのはウタのご機嫌な笑みだった。
「オマエたち、よくやったじゃないか!」
 ニコニコとしたその笑みに出迎えられて私たちは一瞬硬直する。無理もない、帰る時に絶対怒られるという覚悟を決めながら帰ってきたのだ。拍子抜けもいいところである。
「お、怒らないの……?」
 震えた声でタイが聞く。その言葉にウタはきょとんとした表情を浮かべた。
「どうして怒る必要があるんだ? オマエたちは迅速に動き、無事お尋ね者を倒して、子供を救ったんだ。オマエたちは褒められることをしたんだよ」
 ウタのその優しい声に私たちは顔を見合わせる。お互いに照れくさくて笑ってしまうのだった。
「ジバコイルのケイト保安官からお尋ね者の賞金が出ている。これが今回の仕事の報酬だ。とっておいてくれ」
 そういってにこやかに渡されたのは、たったの300ポケ。……うん、わかっていたけれど、やっぱり少ないよね!
「ええ~! これだけしか貰えないの! ボクたちあんなに頑張ったのに……」
「当たり前だ。これが修行だというものだ。また明日からも頑張るんだよ。……あ、そうだ。エリクがお前たちのことを心配していたぞ。後でいいからちゃんと何があったか説明するよーに」
 そういったウタは梯子を下りてどこかに行ってしまった。
 ウタが居なくなった直後、タイはガクリとうなだれる。伏せられたその顔からは落ち込んだオーラがありありと見えていた。
「あと少しでいいから分け前が多いと嬉しいんだけどなぁ……」
 未練がましく呟かれたその言葉に私は苦笑する。タイの肩をぽんぽんと叩いてやると、タイは少しの間いじけた後、気持ちを切り替えるかのようにピンと背筋を伸ばした。
「でもまあいいか。リルを助けることができたんだし。それもこれも今回はのお陰だよ」
 そう言って笑いかけて来るタイに私は首を傾げる。私のお陰って、私は何もしていないけれど。
「ほら、が夢を見たおかげで、リルの危険もいち早くわかったんだから。ボクたちが迅速に動けたのはのお陰だよ」
 そうだ。そうだった。自分でもすごく不思議だったけれど、最初に聞いたリルちゃんの叫び声、そしてそのあとにはっきりと見た夢。そのどれもがいずれも実際に未来で起きた出来事だった。でも、なんでそんなものを私は見たのだろう。あの夢は一体……。
 考え込みそうになったその時、お腹のなる音が部屋に響く。びっくりして顔を上げれば、タイが恥ずかしそうに笑っていた。
「ボクのお腹がなっちゃったよ」
 そうやって照れ臭そうに笑っているタイを見ていれば、自分のお腹からも同様の音が響いた。は、恥ずかしい。
「アハハハ! のお腹も鳴ったね!」
 そういえば、朝食を食べてからずっと何も口にしていなかった。お腹が空くのも仕方ない。
「ボクたち、お腹が空いてたんだね! リルを助けるのに必死で気が付かなかったや!」
 そういったタイのお腹から再度おとがする。そして続くように私のお腹からも。
「ハハハ! 気が付いたら余計お腹が減ってきちゃった! 早くご飯食べにいこっか、!」
 私は頷いて食堂へと駆けだす。そして、用意してもらった美味しそうなご飯を目一杯その口にほおばるのだった。