ボクは、何をしているんだろう。
 リルを騙してたロキが許せなくて、リルが心配で、衝動のようにここまで来た。なのに、いざロキの目の前に立ってみると、足が竦んで動かなくて何もできなかった。怖かった。ロキがこちらを見たとき、ボクの心を占めたのは恐怖心だけだった。
 なのに、どうして。どうして、はそんなに立ち向かえるの。歩くその時、その足が震えているのをボクは見た。怖いはずなのに、どうしてそんなに勇気があるんだよ。
 ロキに戦いを挑んだは一方的にやられている。新米の探検隊とお尋ね者。力量差なんて目前だ。どんどん傷ついていく。やめてよ、これ以上傷付かないでよ。そう思うのに足が動かない。
 ロキの手がの頭に伸ばされる。リルが叫んだ。リルの悲痛な叫びがまるでボクを責めているみたいで、心苦しい。
 だって、足が、動かないんだよ。
「じゃあな」
 ロキが笑う。ロキの手が、の頭に触れる。このままじゃが。
 その時、なぜか足が動いた。ボクは少しずつ足をロキの方へとゆっくりと伸ばす。
 ああ怖い、怖い怖い怖い怖い! 近づいたらロキと戦うことになる。ボクなんかが敵う相手なんかじゃないことなんてわかってる。だから怖かったんだ。でもそれ以上に。こんなにも勇敢なが、ずっと一緒に居ててくれたが居なくなってしまうのは―もっと嫌だ!!
 手の中の電気がその時瞬いた。

 目の前が真っ白になった。そう思っていたのに、少しして目の前がクリアになる。手を伸ばしていたはずのロキがいない。襲っていた頭痛も嘘のようになくなっている。いきなりのことに少し遅れて慌てて周りを確認する。私から少し離れた場所にロキは蹲っていた。技を受けたのだろうか、痛みに顔を歪ませこちらを睨んでいる。いや違う。睨んでいるのは私ではなくて。
「お前……、震えて何もできないんじゃなかったのか!」
 私の目の前に立っている、タイだ。

「怖いよ……今だって怖い。でも」
 震える声でタイは言う。
「お前みたいな奴に、負けるわけにはいかない!」
 タイの手がスパークする。だが、ロキはそれを予知夢で躱す。ダメだ、予知夢がある限りロキに攻撃は当たらない。こちらになす術はない……。でも、どうしてさっきのタイの攻撃はロキに当たったのだろうか。予知夢が働かなかった……?
 そういえば、どうやって予知夢は発動しているのだろう。私は考える。私の時の一撃は確かに余裕をもって躱された。でも、その前に少しだけおかしいことがあったような……。そして私は気が付く。これが本当なのかわからない。でも、賭けて見る価値はある!
 私は再度水鉄砲をロキに打つ。躱される。そしてロキはこちらを見た。ロキの気は確かにこちらに逸らされる。再度ロキがこちらに手を伸ばす。途端に頭が痛みだした。ズキズキと痛む脳内。痛い。痛くて堪らないけれど、確かにタイミングができた。
 私はタイに目配せをする。一瞬にしてタイの手のひらにバチバチと荒れ狂う電気が集まる。その音にロキが気が付いた。でももう遅い。次の瞬間、タイの最大火力の電気ショックがロキの脳天に炸裂した。
 タイの全身全霊の攻撃をその身に受けたロキはふらふらと少し揺れて、そしてその場にばたりと倒れた。私たちの勝利だった。
「や、やったぁ!」
 タイが喜びの声を上げながら膝から崩れ落ちた。緊張の糸が解れたのだろう、しばらくタイは地べたに座り込んだまま立つことができなかったみたいだ。対する私はロキによって叩きつられていた体を起こし、歩く。少し歩けば、向かうから駆け寄ってきていたリルちゃんが私の胸へと飛び込んできた。
さん! 良かった! 本当に良かった!」
 そう言ってわんわん泣くリルちゃん。私はその頭を撫でてあげる。どうやら早く駆け付けたこともあって、怪我などはしていないようだ。その事実に安堵する。

「そういえば、ロキさんに攻撃が当たっていたようですけど、どうしてですか?」
 不思議そうにしているリルちゃんに私は説明する。どうやら予知夢と攻撃は同時には行えないこと。よくよく考えて見れば、私の攻撃を躱す直前、私を苛んでいた頭痛は一瞬消えていた。あれはロキがのちに来るだろう私の反撃を確実に躱す為に、わざと攻撃を解き予知夢に割いたのだ。そして、タイの攻撃が当たった時は、私に何かしらの攻撃を与えようとしていた時だった。自分の気を攻撃に割いた時、予想外のタイからの攻撃には予知夢を使えず、その攻撃をモロに食らってしまったのだ。
 だから私はわざと自分に気を向けさせ、私を攻撃するように誘導した。そしてロキの気が私への攻撃に気が割かれた瞬間にタイに合図を送り、攻撃をしてもらったのだ。
 私はまだ立ち上がれないタイを見やる。私たちはあの時、何も相談もしなかった。なのに、私の合図を読み取り、攻撃に転じてくれたのはタイの機転に他ならない。一時はどうなるのかと思ったけれど……、やっぱりタイはやればできる子なのだ。

……ごめん、助けて……立てなくて……」
 私は溜息をつく。助けに来たのはリルちゃんであってタイじゃないんだけどなぁ。そう思いながら手を貸してあげる。あーあ、ちょっとばかしかっこいいって思ったのに。結局締まらないんだから。
 仕方ないなぁと手を貸してあげる。ようやく立ち上がれたタイと一緒に私たちはリルちゃんを救出して山を下りるのだった。