息を切らしながら、山頂へと駆けこむ。そこには、私が夢で見た光景と全く同じものが繰り広げられていた。
「言うことを聞かないと……イタイ目に合わせるぞっ!」
「た……たすけてっ!」
リルちゃんの悲鳴が岩肌だらけの山に響き渡る。悲痛なその叫び声に、同時駆けこんだタイが負けじと叫んだ。
「待てっ!!」
その声にロキが振り向く。その顔は驚愕に染まっていた。
「な、なぜここが!?」
「ボクたちはペイント! 探検隊だ! 悪い奴は見逃さないぞ!」
「た、探検隊だとっ! じゃあ、俺を捕まえに……」
ロキの声がだんだんととまっていく。彼の目はとある一点を捉えていた。
「……まさかお前、震えてるのか?」
その視線の先に居るのはタイだった。振り向かずともわかる。タイはおびえているのだ。
お尋ね者を、倫理という範疇から外れた者を前にして、平然としている人の方が少数だ。そしてタイのような怖がりなら猶更。
そんなタイを目の当たりにしたロキは口元をゆがめる。先ほどの驚愕の表情から一変、余裕の笑みを浮かべ私たちを嘲笑する。
「そうか、お前たち探検隊と言ってもまだ新米なんだな。道理で今まで見てきた探検隊よりも弱そうなわけだ」
核心を突かれたタイは怯えた顔をさらに歪ませ、その口からは小さな悲鳴が零れる。
……このままではいけない。私はそっと歩を進める。
「……?」
タイの声がするが振り返らない。振り返りなんてしない。ここで立ち止まってしまったら、きっと私も怖くて立ち止まってしまう。でも立ち止まってしまったら、ロキの後ろで震えるリルちゃんは一体だれが救えるんだろう。ここで引いてしまえば、絶対に手遅れになる。だから止まらない。少しずつ歩みを進める。
「なんだ、新米のクセに俺とやるのか。……面白い。お前が俺を倒せるかどうか、試してもらおう!」
私は身構える。ロキが手を振った。途端、頭が捻じりきられるような痛みに襲われる。唐突な耐えきれない痛みに顔を歪ませ、その場に崩れ落ちる。
「ハハハッ! 俺はエスパータイプだから、手を触れなくても攻撃ができるんだよ! 悪いなぁ! 俺が強くてよ!」
頭はずっと痛み続けている。歯を食いしばり、襲い続ける痛みをに耐えながらなんとかロキを視野に入れる。霞む視界の中でなんとピントを合わせようとする。その瞬間、何故か一瞬だけ頭痛が和らいだ。その一瞬を私は見逃さない。瞬時にクリアになった視界でピントを合わせ、生成した水鉄砲をロキに向けて打ち放った。だが、渾身で放ったその一撃はロキのおっと、という軽い言葉で躱されてしまう。
どうして。確かに狙ったのに。驚くのも束の間、すぐさま先ほどの頭痛が襲ってきて私は再度地面に叩きつけられた。食いしばった歯の隙間から声が漏れる。
「お前、新米だから特性も知らないんだろ。教えてやるよ。俺の特性は予知夢だ。お前の攻撃なんて鼻っからお見通しなんだよ」
まるで見えない手が私の頭を潰そうとしているかのようだ。地面に叩きつけられ、身動きの出来ない私は視線だけを動かしてロキを睨む。にやにやとした嘲笑が私の視線を見下ろした。
「俺だってそこまで悪じゃない。傷めつけるのは趣味じゃないんでな。だからちょっとだけ眠ってもらおうか」
ロキの手が這いつくばる私の頭に触れる。
ここまで、なのかもしれない。あきらめたくない。こんなところで負けたくなんかない。でも、足りなかった。こいつに勝つのに、私じゃ足りなかった。
遠くからリルちゃんの声が響く。悲痛に私の名前を叫ぶその声に心が痛む。ごめんね、助けてあげらられなかった。こうなることをわかってたのに、事前に防げなくて何もできなかった。ごめんね、本当にごめんね……。
「じゃあな」
ロキの声が響く。そして視界が真っ白に染まった。