買い物を終えて、トレジャータウンを歩く。私はさっきの声についてもやもやしたまま、町を歩いていた。
「あ、あれは」
タイの言葉に顔を上げる。タイが指差す方を見て見れば、先ほどの兄弟が誰かと一緒に居た。あれは誰だろうか。耳をすませば兄弟が喜んでいる声が聞こえる。何かいいことがあったのかな。
「どうしたの?」
「あ、さっきの!」
タイがすかさず声をかけに言った。タイの声に兄弟がこちらに振り向く。どうやら大切なものを落としてしまったらしいが、このスリープのロキさんが一緒に探してくれると協力を申し出てくれたそうだ。スリープはエスパータイプ。そんな彼が探すのを手伝ってくれるとなると心強いだろう。ロキさんはその落し物を見たことがあるようで、それで協力してくれると言ってくれたらしい。
「ボクたちもう嬉しくって!」
ミナくんが満面の笑みを浮かべる。大切なものだと言っていたし、心強い味方が増えて本当にうれしいのだろう。タイも嬉しそうに笑った。
「それはよかったなぁ!」
「ありがとう! ロキさん!」
兄弟の感謝の言葉にロキさんはなんでもないことのように首を振った。
「いやいや、君たちみたいな幼い子供が困っているのを見たらほっとけないのが大人ですよ。早く探しに行きましょう!」
ロキさんの心優しい言葉に兄弟は頷いた。そして歩き出そうとしたロキさんと私の肩がぶつかる。
くらり。また光景が歪んだ。
「おっと、これは失礼」
ロキさんの言葉が遠のく。ぐらりぐらり。少しずつ遠のいていくロキさんと兄弟の姿が歪んでいく。
「ロキさんって親切なポケモンだね。感心しちゃうなぁ。世の中悪いポケモンが増えてるっていうのに……なかなかできないよね」
タイの声がだんだん聞こえなくなる。耳がタイの言葉を拾わないのに、なぜか他の声が私の耳を占拠し始めた。耳鳴りが、する。
途端、目の前が真っ暗になって、別の景色を映し出す。どこだろう……岩ばかりが見えた。山だろうか? そこにはさっきのロキさんとリルちゃんの姿が。どうして、二人はさっきそこに居たのに。
「言うことを聞かないと……痛い目に合わせるぞ!」
「た……たすけてっ!」
はっと我に返る。ロキさんとリルちゃんの二人はもうおらず、目の前に写るのも岩ではなくトレジャータウンの光景だった。なんだったんだろう。さっきのは声だけじゃない。映像、いや光景までもが見えた。
「落し物、早く見つかるといいよね」
私はタイにばっと振り返る。私の焦った様子にタイは疑問符を浮かべていた。
「どうしたの? そんな焦った顔して……さっきよりも顔色が悪いよ?」
私は先ほど見えた光景をタイに伝える。ロキさんがリルちゃんを連れてどこかへ行ってしまったこと。リルちゃんが危険な目に合うかもしれないこと。早く助に行かなくてはならないということを手短に話した。
でも、それに対するタイの反応は微妙なものだった。
「でもロキさんいい人そうだったよ? 確かにそれが本当なら大変だと思うけど……。のことを信用してないわけじゃないけど……、ボクちょっと信じられないや……」
タイの反応ももっともだ。ロキさんは本当にいい人そうに見えた。私だってめまいが起きなければそう思っていただろう。そもそもこのめまいについてもよくわからない。どうしてあんな光景を見たのか、私には何もわからない……。
「、きっと疲れてるんだよ。顔色も悪いしさ。それできっと悪い夢を見ちゃったんだよ」
そう、なのかな。悪い夢なのかな。
「それにボクたち修行中の身だから勝手なことできないよ。ちょっと気になるけど……、今はギルドの仕事をしなくちゃ。エリクも待ってるし、早く行こうよ」
うん……。私は煮え切らない気持ちを抱いたまま、トレジャータウンを後にした。
胸騒ぎがするのを見ないふりをして。