まずは地下二階に降りると、グレッグルのニヒトを紹介される。どうやら怪しい壺を使って何かをしているようだがエリクもよくは知らないようだ。そして食堂、弟子たちの部屋、おやかたさまの部屋を紹介された後、エリクはギルドの外へと向かっていった。
ギルドの外へ出ると、十字路をエリクは曲がっていく。おいて行かれないように後をついていけば、そのうち街並みが見えてきた。
「ここがポケモンたちの広場……、トレジャータウンでゲス」
トレジャータウンは活気に満ち溢れていた。見渡す限りポケモン、ポケモン、ポケモン。道を多くのポケモンが行き交って、トレジャータウンのところどころに点在するお店からは多くの声が聞こえていた。
どうやら、トレジャータウンについてはタイもよく知るところだったらしく、ヨマワルがうんえいする銀行に、カクレオン兄弟が営むお店、ガルーラのおばちゃんが預かってくれる倉庫、他にもたくさんのお店がここでは営まれているらしかった。
「なかなか詳しいでゲスね、それなら安心でゲス」
エリクはトレジャータウンを見渡し、私たちにちょっとしたお小遣いを渡してくれた。どうやら新しくできた後輩にちょっとだけおごってくれるみたいだ。
「これで一通り準備を整えてくるでゲスよ。準備できたらあっしに声をかけるでゲス。そしたら、お尋ね者を選ぶの、あっしも手伝うでゲスよ」
「ありがとう、エリクって優しいんだね」
タイのその言葉にエリクは顔を真っ赤に染め上げた。どうやら照れてるみたいだ。照れ隠しのようにエリクは早口でギルドの地下一階で待ってると言って早々に帰ってしまった。
変な人なのかと思ったけど、どうやら優しくて頼りになる先輩みたいだ。その後ろ姿を微笑ましく見守っていると、タイが私の手を引っ張った。
「それじゃ、いこっか。ボク、カクレオンのお店がいいと思うんだ」
その提案には私は頷く。どうやらタイはトレジャータウンに詳しいらしいし、タイの提案について行った方がきっとお得だろう。そう考えて私はタイが引っ張るままついて行った。
タイの言う通り、カクレオンのお店はなかなか興味深かった。冒険に役立つアイテムだけじゃなくて、生活に欠かせない道具やご飯、可愛らしいアクセサリー、果てには何に使うのかわからない謎グッズまでより取り見取りに取り扱っていた。
私はじっくりとお店に陳列されたアイテムを見る。今日はお尋ね者を捕まえるために準備しに来たのに、可愛らしいアクセサリーとかいっぱいあって目移りしてしまいそうだ。いけないいけないと首を振って邪念を追い出そうとするも、気が付けば綺麗に輝く雫のネックレスを見てしまっていた。これ可愛いなぁ。でも高いなぁ……。
「! ボクたちが買うのはこっちだよ!」
タイの呼ぶ声に後ろ髪を引かれる思いで向かう。どうやら私は可愛いものに目がないらしい。頭の中にさっきのネックレスが思い返されるが、到底買える値段ではなかったので、私は首を振った。
「これとかどうかな」
タイの提案に肯定したり否定したりして買い物を続けていると、遠くから幼い声が聞こえてきた。どうやらこのお店にはいろんなお客が来るようだ。
「おお~! リルちゃんにミナちゃんじゃないか! いらっしゃ~い」
店長のカクレオン(名前はキリというらしい)さんの声に振り返ると、小さいマリルとルリリがカウンターに来ていた。兄弟なのだろうか。仲良く手をつないで、キリさんに話しかけている。
「すみません、リンゴください」
「はいよ!」
景気のいいキリさんの声と共に紙袋が二人に渡される。きっと中にリンゴが入っているのだろう。お兄ちゃんらしいマリルがキリさんにお代を渡して、にこやかにお礼を告げていた。
微笑ましい風景だ。兄弟で仲良くおつかいなのかな。
「まいど~! いつも偉いね!」
キリさんの声に兄弟は恥ずかしそうに笑って帰っていく。その二人をキリさんとそのお兄さんのサクさんの暖かい目が見送っていた。
「いやね。あの二人は兄弟なんですけど……。最近お母さんの具合が悪くて、代わりにああやって買い物に来るんですよ」
「ほんと偉い子たちですよ」
どうやら、おつかいではなく、お母さんの代わりに買い物を頑張っているようだ。親孝行者のいい子たちなんだなと買い物を続けようとすれば、先ほどのマリルの慌てた声が店内に飛び込んできた。
「おや! ミナちゃんどうした? 慌てて戻ってきて……」
「リンゴがひとつおおいです!」
「ボクたち、こんなに多く買ってないです」
遅れてやってきたルリリが状況を説明する。どうやらリンゴが一つ多かったようだ。わざわざちゃんと返しに来るとは、正直な良い子なのだと実感させられる。
一つ多かったリンゴはどうやらキリさんのサービスだったようで、そのことに兄弟は笑顔を綻ばせて喜んだ。頑張っている兄弟に優しい店主。微笑ましい光景を見て私たちは思わず微笑んでしまう。
笑顔で話しながら帰っていく兄弟。お母さん良くなるといいねと心のうちで思いながらその姿を見守っていると、ルリリが道端の小石につまずいてしまった。つまずいた表紙に紙袋の中のリンゴが一つ私の足元にまで転がる。そのリンゴを拾い、ルリリに手渡そうとしたその時だった。
一瞬だった。目の前が白く染まり、くらりと光景が揺れる。めまいかなと思った瞬間に「た……たすけてっ!」という悲鳴が聞こえた。
「……どうしたんですか?」
かけられた声にはっとする。目をぱちぱちと瞬かせる。光景はもう揺れておらず、心配そうに見つめるルリリが私の目の前に居た。
「おーい、リル! どうしたんだ? はやくこいよー!」
「うん、今行くよお兄ちゃん!」
私からリンゴを受け取ったルリリ―リルちゃんは笑顔でお兄ちゃんの方へと駆けていく。こけてしまったリルちゃんをお兄ちゃんのミナくんが心配そうに見ていたが、何もないと分かってほっとしたようにまた一緒に歩き出した。二人で落し物を探すという話をしながら、二人は店内を出て行ってしまった。
「可愛い兄弟だったね。……、どうしたの? 顔が真っ青だよ」
タイが覗き込むようにして私を見た。どうやら顔色が悪くなっているらしい。
私は先ほどの悲鳴についてタイに聞いてみることにした。
「悲鳴? 何も聞こえなかったよ。ねえキリさん」
「私も何もきこえなかったですねぇ……」
「だって。たぶん気のせいだよ、」
キリさんもタイも聞こえなかったらしい。一瞬自分が幻でも見ていたのかと思ったけど、違う。確かに聞こえた。あの切羽詰まったような声。あれはきっとリルちゃんの声だ……。
「なにぼーっとしてるの? もう買うものも揃ったし、行こうよ」
タイはいつの間にか買い物を終わらせていたらしい。
消化不良でもやもやする中、私たちはカクレオンのお店を後にした。