今日もコウの大声で目覚めた。キーンとなる耳を押さえながら、朝礼に出席すればウタがまた昨日と同じように話しかけてくる。どうやら今日も何かを教えてくれるようだ。
ウタに連れてこられたのは昨日と同じ地下一階の掲示板前。でも、昨日とは違い、昨日の掲示板とは逆の位置に存在する掲示板だった。どうして掲示板が二つもあるのだろう。依頼がそれだけ多いってことなんだろうか。
「この前と掲示板が違うね。昨日は確かあっちの掲示板の仕事をしたような……」
タイが疑問の声を上げると、ウタがよく見るよう指示をする。言われるままに見て見れば、こちらの掲示板にはポケモンの絵が張ってあった。昨日のは殆どが文字だけだったから、違いがすぐに分かった。
「いろんなポケモンの絵が張ってある! みんなカッコイイなあ! 有名な探検家なのかな?」
私もポケモンの絵をじっくりと見てみる。カッコイイというか、みんな強そうというか……。どれも一筋縄では行かなそうなポケモンたちだ。
「ねえ、ウタ。彼らは何なの?」
ウタにタイがそう聞くと、ウタは残念そうに首を振った。
「ここにあるのは、全員お尋ね者。皆悪いことをして指名手配されている奴らだ」
「ええっ! お、お尋ね者~!?」
タイがあんぐりと大きく口を開ける。よくよく紙を見返すと、絵の下に金額が書かれていた。賞金ってやつなのかな。
「そう。彼らには賞金がかけられている。捕まえればお金がもらえるが、皆凶悪だからねえ……手を焼いているんだよ」
やれやれとウタがため息を吐いた。そんなウタにタイは震えながら声をかける。
「ま、まさか、それをボクたちが捕まえろっていうの!? ぜ、絶対ムリだよう!」
そう言ってはブルブルと震えるタイ。私は前の海岸の洞窟のことを思い出す。私たちはあそこで悪いポケモンともいえる二匹を退治したが、ここに貼られているポケモンたちはそれ以上の悪で、それ以上に強いのだろうか。タイは確かに強いけれど、それ以上に強いのかもしれない。もし互角だったとしても臆病なタイがお尋ね者を相手に本領を発揮できるかどうか……。
震えだしたタイと黙り込んでしまった私を見て、ウタが笑いだす。
「じょーだんだよ、冗談。悪いポケモンなんて色々いるからね。世紀の極悪も居ればちょっとしたコソ泥程度もいるって感じでピンキリだよ。まさか結成したてのオマエたちに極悪ポケモンを捕まえてこいなんて頼む訳ないじゃないか」
面白いものを見たとでも言う様にウタは笑い続ける。それでもタイは震え続けていた。
「でも……弱いと言っても悪いポケモンには変わりないんだよね? そんな奴と戦うなんて……ボク、怖いよう」
実際タイはコソ泥程度のようなポケモンに被害にあったからなのか、ぶるぶると怖がり続けていた。うーん、でもあの程度ならタイの実力で倒せたのだからそこまで怯えなくてもいいと思うが……。臆病なのは相変わらずだ。
「これも修行のうちだよ。なんとかしな」
ウタの無慈悲な言葉にタイはそんなぁとしょぼくれる。怖い気持ちもわかるが、修行なら頑張らなきゃいけないだろう。そう思って私はタイの肩をぽんぽんと叩いた。それに、コソ泥とはいえ悪いポケモンを捕まえられればタイも少しは自分に自信を持てるようになるかもしれない。お尋ね者退治もそんなに悪くないかもしれない。
「といっても戦うにはそれなりの準備が必要だよね。おーい、エリク! エリクはいないか!」
その呼び声に少し後にはいー!という元気な返事が返ってくる。そしてその返事の後、茶色のポケモンが私たちの目の前に立っていた。ビッパだ。
「お呼びでしょうかー!」
「エリク、コイツらのことはもう知っているよな。最近入った新入りだ。コイツらに広場を案内してやってくれ」
「はいー! 了解でゲス!」
語尾がなかなか特徴的な人だ。ウタはエリクに私たちのことを任せた後、仕事があるといって下へと降りて行ってしまった。私たち二人とエリクだけがここに残されていた。
しばらく私たちの間に沈黙が流れたあと、私がエリクに声をかけようとした時、気が付く。エリクが泣いていたのだ。思わずぎょっとしてしまう。私何かおかしいことしてないよね、なんで泣いてるんだろう。
「ど、どうしたの」
突然泣き出したエリクにタイもぎょっとした声を出す。そんなタイにエリクは涙でしゃくりあげながら返答した。
「こ、後輩ができて……感動してるんでゲス……。キミたちがここに来る前は自分が一番の新入りだったゲスよ……」
そう言って泣き出してしまうエリク。どうやら私たちが来るまで全く新入りが居なかったことから、ようやくできた後輩に思わずうれし泣きしてしまったようだ。アハハ……とタイと一緒に乾いた笑いをこぼす。……ギルドに入った時から思ってたけど、このギルドって個性的な人多いなぁ……。
「じゃあ、案内するでゲス。ついてくるゲスよ」
どこから出したのかティッシュでエリクは器用に涙を拭いた。そしてきりっとした顔になったかと思うと、自分についてくるように促す。どうやら先輩として張り切りたいみたいだ。私たちはエリクの面目をつぶさないよう、後について行った。