草むらの中から現れたのはふわふわとしたポケモンだった。緑色が混じっているのを見るに草タイプだろうか。
俺はフタチマルの入ったボールを投げる。音と共にフタチマルが地面に降り立った。
「フタチマル、倒したらダメだぞ」
相手のポケモンを見据えたままのフタチマルが頷いた。倒してしまっては元も子もない。俺はフタチマルが相手を倒さないよう祈りながら水鉄砲を指示した。
だが、フタチマルの水鉄砲よりも先にポケモンが動いた。次の瞬間、ポケモンから黄色い粉末が飛び出す。
「し、痺れ粉!? いけない、避けて!」
焦ったようなの声が聞こえるが、時すでに遅くフタチマルは体中にその粉末をかぶってしまっていた。途端、フタチマルの体が鈍くなる。
あちゃーとの声。俺はフタチマルに指示を飛ばすが、体に被った粉のせいでどうやらまともに動けないようだ。相手のポケモンがクスクスと笑った。……あの野郎、とんでもないいたずらっ子かよ。
に麻痺対策の道具はあるか問われて俺は首を振る。
「そっかー、じゃあ状態異常の対策もこれからは必須だね」
の言葉が痛く身に染みた。ショップではそういう状態異常回復アイテムよりも傷薬の方を優先して買ってしまっていたから耳が痛い。
目の前のポケモンはこちらを煽るようにふわふわと飛んではくすくす笑う。俺はもう一度フタチマルに指示をした。今度はフタチマルは動くことができたらしい、狙いを外さない水鉄砲が炸裂した。これにはポケモンも驚きだったらしい。ふわふわと浮かんでいたその顔面に勢いよく水鉄砲が当たり、ふらふらと地面に落ちる。倒してしまったかと不安になるが、どうやらまだ動けるようだ。地面でバタバタとあがくポケモンを見てホッと安心する。
「ほらボール! 早く投げないと逃げちゃうよ!」
の言葉にはっとする。そうだボールを投げなければ。
俺は空っぽのボールを取り出して投げた。ボールは放物線を描いてポケモンへと飛んでいく。そしてコツンと当たったかと思えばポケモンを取り込んだ。
ぐらり。ボールが揺れる。お願いだから出てこないでくれ。手に汗を握る気持ちでボールを見つめた。ぐらり、ぐらり。ボールはまだまだ揺れる。息をするのも忘れてしまうような中、ボールの揺れが収まった。カチリ。確かに俺はその音を聞いた。
捕まえ、られた。呆然とする頭がゆっくりとその事実を理解する。
「やった! トウヤ! 捕まえられたよ!」
満面の笑みのが近づいてきていた。俺はハッと我に返ってボールを拾いに行く。さっきとは違うボールの重さに少しだけ驚いた。当たり前だ。さっきの空っぽのボールと違って中にはポケモンが居るのだから。
「ねね、捕まえたポケモン、ボールから出してみない?」
の言葉に頷いて俺はボールからポケモンを出してみる。飛び出てきたポケモンはふわりふわりと跳ねながら俺たちの周りを飛び回った。さっきフタチマルの水鉄砲を食らったっていうのにすごく元気だ。
その時バッグに入っている図鑑から音が鳴った。急いで見て見ると、どうやら捕まえたポケモンが新しく登録されたようだ。
捕まえたポケモンの名前はモンメン。草タイプのポケモンで特性はいたずらごころ。どうやら変化技を先制して出すことができるらしい。だから俺のフタチマルよりも先に攻撃を仕掛けられてたのか。
「へぇ~、そんな特性があるんだ」
俺の図鑑を覗き込むが言った。ふむふむと図鑑を眺めながら何かを思案する。そして図鑑とモンメンを交互に見ていたは何かをひらめいたようで、俺の顔を見てニヤリと笑った。
「この子、使えるかもよ?」
いたずらっぽく笑うその笑みに、俺は捕まえたてのこのモンメンと、どっちがよりいたずらっ子なのかと関係ないことを考えていた。
ヤグルマの森を出て。俺たちはポケモンセンターでフタチマルとモンメンを回復していた。
「今回はモンメンを最初に出すのか?」
「そう! モンメンの特性、いたずらごころ。あれは使えると思うんだ。都合のいいことにモンメンが痺れ粉っていう変化技を覚えてくれてるみたいだし」
どうやら今回は相手のポケモンを麻痺させて戦う戦法を取るみたいだ。いい戦法だとは思うけど、少し疑問に思う。麻痺らせてももし麻痺直しで直されたりしたら意味がないんじゃないか?
「その点は大丈夫、ジムリーダーはそういうアイテムを使えないの」
が説明したところによると、ジムリーダーはチャレンジャーとの対戦時使える回復アイテムを制限されているらしい。もちろんその回復アイテムもチャレンジャーの練度によって使うものが変動するとのこと。
「あと少しで倒せそう! って時に毎回回復アイテムを使われちゃあ勝てないでしょ? だからジムリーダーたちは使えるアイテムを制限されてるの」
「なるほどな、だからジムリーダーは自分のポケモンの状態異常を治そうにも治せない……。自然治癒に任すしかないってことか」
「そういうこと。しかも麻痺は自然治癒では治らない状態異常。……私も何度も苦戦させられたなぁ」
ははは……と遠い目をして笑う。どうやら麻痺には苦い思い出があるらしい。
「さてと、無事に二匹目も捕獲できたし、ジムチャレンジに行こうか」
俺はジョーイさんに預けていた二匹を引き取る。ボールの中の二匹は回復してもらって、やる気も絶好調だ。よし、行ける。
「二つ目のバッジ。取りに行くよ」
そうニヤッと笑う。その笑みに俺は力強く頷いた。