サンヨウジムがカフェと一緒だったように、シッポウジムは博物館と一緒の建物らしい。サンヨウジムとはまた違った雰囲気に俺は固唾を飲む。いざ挑もうと足を踏み入れようとした瞬間、扉から人の気配を感じとる。とっさに俺は後退ると、その扉からは緑髪の青年、Nが飛び出してきた。
「ボクは……、誰にも見えないものが見たいんだ。ボールの中のポケモンたちの理想。トレーナーという在り方の真実。そしてポケモンが完全となった未来……。キミも見たいだろう?」
相も変わらずよくわからないことを口走るNに俺は首を振る。理想? 真実? コイツが勝手に言ってるだけだろ。
「……ふうん。期待外れだな。それよりもボクとボクのトモダチで未来を見ることができるかキミで確かめさせてもらうよ」
そう言ってNはモンスターボールを構える。何だよコイツ、言いたいことだけ言ってやるのはバトルかよ! 俺もボールを構えた。
「今のボクのトモダチとではポケモンたちを救い出せない……。世界を変えるための数式は解けない……。ボクには力が必要だ……。誰もが納得する力……」
俺はポケモンをボールにしまう。俺が勝ったと言えど、ジムに挑むはずだったポケモンは少し傷ついてしまった。またポケモンセンターに帰らなくては。余計なことをしてくれたなと心の中で毒づく。
「必要な力は分かっている。英雄と共にこのイッシュ地方を作った伝説のポケモンゼクロム! ボクは英雄になり、キミとトモダチになる!」
俺に負けたNはずっとよくわからないことを呟いていた。アイツ、普通にヤバイ奴だよな。正直二度と関わりたくないが、旅をしていると向こうから突っかかってくるから面倒くさいことこの上ない。俺がため息を着くと、後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「ごめんね~! 遅くなっちゃった!」
だ。こちらに駆け寄ってくるはどこかへ行こうとするNとぶつかりかけるもひらりと躱してこちらへと走り寄る。対してNはそんなをちらりと流し見て、そのままどこかへと行ってしまった。
「突然電話掛かってきちゃって……、待ったかな?」
「いや、俺も今ジム入ろうとしたところだから。気にするなよ」
まあジムに入ろうとしてNに邪魔されたのだが。は良かったぁと笑う。ポケモンセンターを出た直後、に電話がかかり、俺が先にジムへと来ていたのだ。まあ、そのおかげでNと鉢合わせてしまったのだが……。
「さっきの緑髪の人と話してたみたいだけど、友達? なんかタイミング的に邪魔しちゃった感じかな?」
申し訳なさそうなに俺は首を振る。アイツと友達なんてちょっと考えるだけで疲れる気がする。
「アイツ、よくわかんない奴だから気にすることない。Nっていうんだけど、会う度変なことばっかり言ってるんだよ。ポケモンとトレーナーの未来がどうとかって」
「……へぇ。そうなんだ」
そう言ってはNが去った方向を見る。なにやら神妙そうな顔でアイツが去った方向を見つめていたが、それも少しの間ですぐに俺の方へと向き直した。
「ほら、ジム行こう。早くしないと日が暮れちゃうよ」
「ああ、それなんだけど……。さっきアイツに勝負を挑まれたせいで万全じゃないんだ」
「ああ、そういうことだったの。大丈夫、ちょっとポケモン貸して」
は手に持っていたバッグをごそごそと探ると、俺が差し出したポケモンに取り出したアイテムを使う。
「はい、これでHPもPPも満タンだよ」
「え、いいのか。アイテム使ってもらって」
「いいのいいの。お返しはジム戦に勝つことね! いーい?」
そう言って顔を覗き込む。お返しはジム戦に勝つことか……。俺はからポケモンたちを返してもらい、帽子の角度を直す。
に回復してもらって、はい負けましたなんてかっこ悪すぎる。
2つ目のジムにも勝つぞと意気込めば、その調子! とが笑った。