「わぁ!」
草むらを越え、道なりに歩いて行った先には新しい街、シッポウシティの街並みが広がっていた。カノコよりも広くおしゃれで、かといって並んだ建物はそのおしゃれさを大きく主張することもなく落ち着いた街並みには感嘆の声を漏らす。
「すごいねぇ」
思わず走り出したと手が離れる。一瞬寂しく感じたが、シッポウシティまでという約束だ。俺は離された自分の手を見つめては、すぐに目をそらし走り出したの後を追った。
はすぐそこに居た。いやだけじゃなかった。の目の前にはチェレンが居たのだ。
「なんだやっぱりトウヤも居たのか。着いてきなよ」
チェレンは俺の姿を見つけると、後についてくるように促して歩き出す。俺とはその後についていけばチェレンはこの街のポケモンセンターへと案内してくれた。プラズマ団と戦った後、シッポウシティまでたどり着くまでに俺のポケモンも疲弊していた。回復が必要だったし、ポケモンセンターに案内してくれたのはちょうどよかった。俺はフタチマルの入ったボールを取り出す。チェレンはそのボールをちらりと見て言葉を続けた。
「アドバイスだけど、この街のジムリーダーはノーマルタイプの使い手。格闘タイプのポケモンが居るとかなり有利かもね」
「へえ、ノーマルタイプ。確かに格闘タイプが居れば有利だね。……まあフタチマルだけだとかなり苦戦を強いられるだろうし、そろそろ新しいポケモンを捕まえてもいい時期じゃない?」
チェレンの言葉にが頷く。俺は再度フタチマルの入ったボールを見る。前のサンヨウジムでもかなり運任せの戦いを強いられた。さすがに二度目はないだろう。そろそろ新しいポケモンの捕まえ時なのかもしれない。俺はに頷いた。
「じゃあ、ポケモンを回復し終えたら新しいポケモンを捕まえにいこっか」
の言葉にチェレンはふぅと小さく息を吐いた。
「ぼくからは以上だから。あ、あとこれもあげとくよ」
そう言ってチェレンは俺に木の実を渡してくれる。カゴのみ。どうやら眠り状態になったポケモンを起こしてくれる木の実らしい。チェレンは木の実を俺がバッグにしまったことを確認すると、この場から離れて行ってしまった。俺たちはその離れていく背中を見送りながらポケモンセンターへと入った。
フタチマルをジョーイさんに回復してもらったあと、近くのベンチで座っていたが膝を叩いて立ち上がった。
「よし、ポケモンを捕まえにいこう!」
俺はその言葉にバッグから空っぽのモンスターボールを取り出す。新しいポケモン。そう言えば、ポケモンの捕まえ方を教えてもらってから俺は一度もボールを投げていない。そんな俺に新しくポケモンを捕まえられるのだろうか。空のボールを見つめたままの俺を見てがカラカラと笑った。
「大丈夫、そんなに難しくなんてないよ。ほら、行こう」
そう言っては微笑む。俺はその笑みに元気づけられるようにの後を追った。
俺たちが来たのはシッポウシティを抜けた先、鬱蒼と木々が生い茂るヤグルマの森だった。
歩くたびにガサガサと足元の草むらが揺れる。草に足を取られながら歩くは額に伝った汗を拭って大きくため息を吐いた。
「格闘タイプ見つかんないねー……」
森の中。現れるポケモンは草木が目立つ森にふさわしい草タイプや虫タイプばかりだった。格闘タイプ以外のポケモンが出てはフタチマルで倒し、出ては倒し……を繰り返すたびにフタチマルの経験値は伸びていき徐々にレベルも上がってきていた。本来の目的とは違ってきた探索に俺も息を吐く。暑い。木陰によって直射日光は遮られているとはいえ、ぽかぽかとした春の陽気の中で歩き続ければ疲れもたまり、前に居るのように顔にはいくつかの汗が伝っていた。
「格闘タイプじゃないといけないわけ?」
「別に格闘タイプじゃないとダメってわけじゃないけどさー、ノーマルタイプって面倒で、効果抜群をつけるのが格闘タイプしかいないの」
俺は頭の中でタイプ相性図を思い出す。ノーマルタイプ、ノーマルタイプ……。確かノーマルタイプは格闘タイプに弱点を突かれ、ゴーストタイプとはお互い効果なしの関係だった気がする。あとは岩タイプと鋼タイプに対して効果はいまひとつぐらいだったか……。効果抜群な相手がいない代わりに、ノーマルタイプの弱点をつけるのも格闘タイプのみ、とはシッポウシティのジムリーダーなかなか面倒なタイプを専門としている。
「まあ、格闘タイプがいないなら効果一致技でゴリ押しちゃうのもありだと思うけど……。フタチマルオンリーはさすがにきついと思うんだよね」
草をかき分けながらが言う。俺もその言葉に賛成する。フタチマルオンリーはさすがにもう無理だろう。格闘タイプじゃないにしろ、そろそろ2匹目が必要な時期だ。
「はノーマルタイプに対してどうしてたんだ?」
「私? うーん、私の地方にはノーマルタイプのジムリーダーなんていなかったからなぁ。まぁ、手持ちに格闘タイプの子がいるから、ノーマルタイプを出されても敵じゃなかったけど」
ふふん、と自信ありげに胸を張る。の出身地にはどうやらノーマルタイプのジムリーダーはいなかったようだ。それに格闘タイプが手持ちに居る。……のことを参考しようと思ったら、思わぬに関しての情報を得てしまった。俺はそっと心の中にその情報をしまい込む。
「って、トウヤの参考にはならなかったね。ごめんね」
「いいよ。俺は俺なりの方法で頑張ってみるからさ」
俺はしゅんと肩を下げてしまったの肩を叩いてやる。その時だった。近くの草むらが大きくがさりと揺れる。その音に俺とは顔を上げる。音の方へと振り向けば、草むらと草むらの間にちらりと動く影が見えた。
「トウヤ!」
焦ったようなその声に俺はすかさずフタチマルの入ったボールを手に持つ。今度こそ。今度こそポケモンを捕まえる。
俺はそう思って身構えた。