「……あいつら、この中に入っていったよ。で、トウヤ、。ポケモンの体力とか準備はばっちりだよね?」
 西に走れば地下水脈洞窟と看板が立てられた洞穴の前に辿り着く。どうやらこの洞窟は中が行き止まりのようでこの中に入り込んでしまったプラズマ団はこの入り口兼出口から入れば一瞬で袋のネズミになるだろう。でもそれは中に入り込んだプラズマ団と鉢合わせるということだ。夢の跡地で容赦なく襲い掛かってきたあの二人組。今回はそうならないという保証はない。
「勿論」「大丈夫」
 俺との声が重なる。チェレンは頷いて「じゃ、行くよ」と言って洞穴へと入っていった。俺たちもそのあとに続く。
 
 先に入っていったチェレンはプラズマ団の団体と相対していた。チェレンは一言二言プラズマ団に話していたが、どうにもならないとでもいうように首を振る。
「……はぁ。こいつら話が通じないメンドーな連中みたいだ」
「まだ幼い子供からポケモンを取り上げて罪悪感も感じない連中だもの。これで話が通じたら驚きだよ」
「同感」
 チェレンとがプラズマ団を批判的な目でにらみつける。だが、その二人の目線をものともせずプラズマ団は口を開いた。
「あんな幼い子供ではポケモンは到底使いこなせない。それではポケモンが可哀想だろう?」
 ふふんと不敵にほくそ笑むプラズマ団に吐き気がした。子供だから使いこなせない? ポケモンが可哀想? なんでそんなことをお前らが決めるんだ。
「ポケモンが可哀想かどうかなんてポケモン自身が決めるだろ。ポケモンだって馬鹿じゃない。そうやって決めつけて無理矢理主人の元から引き離される。そういうポケモンの方が圧倒的に可哀想だ」
 ほくそ笑んでいた団員の口元が歪む。腕をとんっとが押した。「よく言った」。そう言われるとちょっと気恥ずかしくなってきて「当たり前のこと言っただけだよ」と返すが、それにもは満足そうに微笑んだ。
「……お前らのポケモンも同じだ! お前らもまだ幼い子供じゃないか! 我々プラズマ団にポケモンを差し出せ……いや、奪ってやる!」
 プラズマ団が隊列を変えこちらに挑んでくる。こんな奴らに負けるわけには行かない。俺たちはモンスターボールを構えた。

「何故だっ! 何故正しき我々が負ける!?」
「俺たちはポケモンを解放するため愚かな人間たちからポケモンを奪っているのに!」
 俺たち三人に一人残らず負け、なす術をなくしたプラズマ団は慟哭した。はそんな彼らに一歩踏み出して見下ろす。
「……本当にポケモンが人と一緒にいるのが正しいのか間違ってるのかなんて、ポケモンと話せるわけじゃないから、ポケモンの本音なんてわからないから定かじゃないけど」
?」
「でも、善悪の判らない子供を泣かせて、辛い思いをさせて、それが正しいことだって無理矢理教え込ませるのは正しくないって言いきれるよ。絶対に正しいなんて思わない。そんなことが正しいなんて思いたくない」
「……の言うとおりだ。どんな理由があろうと人のポケモンを盗っていいわけがないよね? それが幼い子供なら猶更」
 チェレンも一歩踏み出し、に同調した。それに対してプラズマ団は顔を背け地面へと目線をそらす。
「お前たちのような分からず屋がポケモントレーナーが、ポケモンを苦しめているのだ……」
「……なぜトレーナーがポケモンを苦しめているのか全く理解できないね!」
 よろよろと立ちあがるプラズマ団。その手にはモンスターボールが握られていた。俺はそれを受け取る。
「ポケモンは返す……。だが、このポケモンは人に使われ可哀想だぞ。……いつか自分たちの愚かさに気づけ」
 そう言ってプラズマ団は洞穴から逃げ出していった。
 チェレンはこれ以上追求するつもりはないのかそのその背中を見送るだけだった。
「ポケモンの力を引き出すトレーナーがいる。トレーナーを信じてそれに応えるポケモンがいる。これでどうしてポケモンが可哀想なのかわからないね」
「人と人が信じあうようにポケモンと人にも信頼関係があるはずなのにな。それを利用していると勘違いしてしまうのはなんだか悲しいな」
「そうだね……。さてと、トウヤ、。僕がポケモンを返してくるよ」
「ああ、よろしく頼む」
 俺はモンスターボールをチェレンに手渡した。チェレンはそれを大事なものを受け取るようにやさしく扱う。そして出口の洞穴に向かっては、一度止まった。

「なに?」
「さっきの言葉、良かったと思うよ。だからと言って君への疑惑が晴れたわけじゃないけど……。それと僕の名前に敬称はいらないから」
 チェレンはそのまま振り返ることなく洞穴をくぐって出て行ってしまった。洞窟に残されたのは俺との二人だけ。呆気にとられたがいう。
「えっと、今のって……」
「チェレンがのこと認めてくれたってことだろ。アイツ、素直じゃないんだから」
 が俺の顔に見合わせた。ぼそりと認めてくれた……。と呟く。そして破顔してはチェレンってわかりにくいねとこらえきれなくなったように笑った。
「ん」
「え?」
「シッポウシティまで手ぇ繋ぐんだろ」
 俺が手を差し出せば、またが呆気にとられた表情になった。そしてまた笑って俺の手を取った。
「そうだったね」
 この騒動で離されていた手がもう一度繋がれる。今度はシッポウシティまで離されないように少しだけ強く握る。この洞窟は明かりになるものがなくて昼でも暗い。だから俺よりも奥に居たは気がつかなかったんだろうな。洞穴から出ていくチェレンの耳が少しだけ赤くなってたことを。チェレンのことで笑うの姿に俺の顔が少しだけ歪んでたことを。知らなくていい。は何も知らなくていい。だから俺のこの気持ちが少しだけ傷んだことだっては知らなくていい。