育て屋や保育園が並ぶ3番道路を駆け抜けていく。道中、道路で遊ぶ園児たちに勝負を挑まれては相手をし、一部の園児には手をつないでいることを園児に「恋人なのか」と聞かれて赤面したりとしながら一直線の道路を歩いていく。道中の勝負ではレベルの上がったミジュマルがフタチマルに進化するということがあった。新しくなった相棒の姿に頭を撫でれば少しだけ生意気になったのかツンと顔をそらされた。一体誰に似たのだか。
「ねえあれ」
「ん?」
「チェレン君じゃないかな」
 そう言ってが指をさした先には水色のジャケットを着た眼鏡少年が。あれは確かにチェレンだ。そうだなと相槌を打てば、握られている手がきゅっと少しだけ力がこもった。そういえばチェレンはのことを疑問視していた。気にすることないと伝わるように同じくらいの力で握り返す。
「チェレン」
「ああ、トウヤか。ここにいるってことはサンヨウジムを突破したんだね」
 チェレンは視線を動かして俺の隣にいるを見た。
「キミは挑んだのかい?」
「挑んでない」
「どうして? 旅をしているのに挑まないのかい?」
「……旅をすることとジムに挑むことはイコールじゃないから」
「ふーん。わからないな。まあ、それはさておき」
 チェレンはそういって俺に視線を戻す。先ほどまでの探るような視線から変わり、ギラギラと闘争心に燃えた目が俺を貫いた。
「トライバッジを持つ者同士、どちらが強いか確かめるよ」
 の手がそっと離れた。驚いて振り返ればにこりと笑う。勝負を始めるからと気を遣ってくれたのだろうか。頑張れとの口が動く。それに俺はおう、と頷いてチェレンとの勝負に挑んだ。

 俺のフタチマルのシェルブレードがツタージャに決まり、ツタージャは力なく倒れる。進化しているだけあって、未だ進化していないツタージャをタイプ不利にもかかわらず圧倒する姿は着実に自分の相棒が強くなっていることを感じさせた。
「……なるほど、そういう戦い方ね。……そろそろミジュマル、いやフタチマル以外のポケモンを捕まえるべきだと思うけど」
「あ。それは私も思ってた」
 二人から寄せられる目線から逃げるように体をそらす。俺だってわかってるよ。でも捕まえたいと思うポケモンがいないんだから仕方ないじゃないか。
「そんなのじゃ次のジムリーダーで支えるだろうね」
「次のジムリーダーって」
 どんな奴なんだよ。そう言おうとした言葉は発されることはなかった。遠くから聞こえてくる怒号に思わず言葉を引っ込める。
「どけ! どけーっ!」
 乱暴に目の前を過ぎ去っていく。一瞬で過ぎ去っていったが、あの姿は忘れることはない。プラズマ団だった。唐突な割り込みにチェレンが顔をしかめる。勝負を少し離れて見ていたも眉根を寄せて、プラズマ団が過ぎ去った方を睨んでいた。夢の跡地で散々なことをしていたプラズマ団。今回走って行ったプラズマ団もきっと碌なことはしていないだろう。追いかけようかと足に力を入れた瞬間、今度は女の子の声が近づいてきていた。この声はベルだ。
「ベル? どうして走ってるの」
「ねえねえ、今の練習どっちに向かった?」
 息を切らしながらベルがチェレンに詰め寄る。見たことの無いベルの剣幕にチェレンはたじろぎつつも西を指さした。
「あっちだけど……だからどうして走ってるのさ」
「ああもう! なんて早い逃げ足なの!」
 ベルはどうやら頭に来ていてチェレンの質問が聞こえていないようだ。ベルの背後についてきていた幼い少女が肩を震わせて泣き始める。
「どうしたの?」
 がしゃがんで女の子に目線を合わせて尋ねるも、女の子はしゃくり上げるだけで上手く言葉を話せないようだった。女の子が何も言えないので、何があったのかわからずじまいになりそうだったのをベルが補足する。纏めると先ほど走り去っていったプラズマ団にこの女の子のポケモンを盗られてしまったようだ。早くそれを言えと怒るチェレンに、泣き叫ぶ女の子をなだめようとするベル。
 ああ、やはりプラズマ団は碌なことをしていなかった。
「トウヤ行こう。早く追いかけて取り返そう」
 女の子の涙を拭っていたが立ち上がる。先ほどチェレンとの勝負で傷ついたフタチマルをジムでもらった美味しい水で癒してから俺も歩き出す。チェレンもどうやら一緒に行ってくれるらしい。
「おねがい、ポケモンを取り返してあげて!」
 ベルが女の子を抱きしめながら叫んだ。当たり前だった。俺たちは走り出す。1秒でも早くポケモンを取り返す。その為に。