突如立ち止まってしまったに向き直る。は俯いていてその顔の表情は何も見えなかった。
「どうしたんだよ。突然立ち止まって」
「……怪しいって思わないの?」
 絞り出すように喋るに必死に耳を澄ませる。
「私、何も話さないのに、プラズマ団は私のこと知ってて、トウヤは私が怪しいって思わないの」
 そういっては伺いみるように俺を見る。なんだかそれが俺には拒絶してほしくない子供のように見えて俺の胸を突いた。
 立ち止まったに一歩近づく。一歩近づけばが一歩後ずさった。もう一歩近づく。また後退ろうとするよりも先にまた一歩を踏み出してその手を取った。
「俺はを信じてる」
 が息を呑んだ。
「そりゃ最初は何も話さないし、秘密主義の奴なのかと思ったけどさ。言わないってことは言いたくないってことだろ。俺、言いたくない奴からわざわざ聞き出す趣味とか無いからさ。言いたくなった時に言ってくれたらいいよ」
「なんでそんなに無条件に信じてくれるの」
「無条件というか、あのさ。俺のジム挑戦の時に頭悩ませて作戦考えてくれたり、野生のポケモンが虐げられてる時にあれだけ怒るような奴が悪い奴だなんて思わないだろ。のことは自身が証明してるんだよ。だから俺はを信じても大丈夫だってそう思ったんだ」
 俺の言葉には目を見開く。なんだかその顔がすごく間抜けに見えて笑ってしまった。噴き出して笑ってると、笑われていると気づいたのかが顔を赤く染めて頬を膨らませた。
「笑わなくたっていいじゃん」
「もしまた同じようなこと言ったら笑ってやるからな。覚悟しろよ」
「……うん。もう言わない」
 そう言っては微笑んだ。その笑顔が見とれるほど可愛くて俺はそっと目をそらした。顔が整ってるって反則だろ。
「……あと7つ」
「何が?」
「ジムバッチが残り7つあるんだからさ、この旅は長いだろ? そのうちに話してくれるといいからさ」
「……うん。……あと、トウヤ」
「なに」
「手」
 が俺に掴まれたままの手を上げる。あ、手、掴んだままだった。そう気が付いた瞬間すごく恥ずかしくなってきて手を振り払った。
「悪い! ずっと握るつもりはなかった!」
「……」
 は振り払われた自分の手を見てポカンとしていた。そして俺の顔と自分の手を交互に見ては呟いた。
「もう一度手握っていい?」
「えっ」
「……その、なんかわかんないけど、嬉しかったから。もう一度手を握りたいなって。ほら! この後シッポウシティ行くでしょ! そこまでで、いいからさ……」
 徐々に声が小さくなっていく。その声が小さくなっていくのとは反比例して顔がどんどん赤く染まっていく。これは、期待してもいいのだろうか。先ほど振り払った手のひらを握りしめる。ドキドキと胸がうるさい。の手に手を伸ばすだけなのにぎくしゃくとぎこちないような気がして、緊張がばれてしまわないか焦る。手が触れた。
「シッポウシティまでだからな」
 俺の口から可愛くない言葉が漏れた。本当は嬉しいくせに、シッポウシティについても離したくないくせにそんなことを言ってしまう。自分の手よりも小さいその手を握りしめる。痛くないようにそれでいて離れてしまわないように。力加減が難しいような気がして手を握るのはこんなに難しいことだったかと困惑した。
「うんっ」
 それでも嬉しそうにが笑ってくれるから。小さな手が俺の手を握り返してくれたから。きっとこれでいいんだとそう感じた。