はジム挑まないのか?」
「うん。挑まないよ」
 驚いた。俺にジム巡りを提案したものだから、てっきり観光次いでに彼女もジムに挑むものだと思っていた。俺の問いに頷いた彼女はスタスタとジムへと入って行ってしまう。俺も一拍おいて彼女を追いかけてジムへと入る。ジムに入るとポケセンで見た冊子通りの景色がそこには広がっていた。初めて挑むジムの気迫に押される俺を他所に、先に入っていたは誰かと話していた。二人が話している内容は少し離れているせいでよく聞こえなかった。ようやく正気に戻った俺がの方へと歩いていくと、がその足音に反応するかのように振り向く。
「ほら彼が」
 それに釣られるようにと話していた男も俺の方に振り返る。男は俺の姿を認めると口を大きく広げて心底楽しそうに微笑む。
「ようこそ未来のチャンピオン! ジムに挑んでくれてありがとう!」
 そうにっかりと笑った彼は俺に水の入ったペットボトルを渡しに来た。わけがわからないままそれを受け取ると、少し離れた場所でがくすっと笑った。
「それはおいしいみず。ポケモンの体力回復に使えるから、覚えておいたほうがいいよ」
「はぁ……」
 なるほど回復アイテム。確かに貰って損はないだろう。ちゃんと覚えておこうと思いながらバッグにしまう。それを見届けていたはコツコツとジムの中を歩いてはするりとカーテンの奥へと入って行ってしまった。その滑らかな動作に思わずぎょっとするが、先ほどの男性は咎めることはしなかった。そこでふとジムには挑まないといった彼女の言葉を思い出す。俺が挑んでいる間彼女も一緒にジムリーダーのところまで来てくれるかと思っていたがどうやら違うようだ。ここからは俺一人でジムに挑まなければならない。そう思うと先ほどまで消えていたはずの緊張感がまたずしりと肩にのしかかるような気がした。

 ジムに挑み始めてから数分。それぞれのジムには挑戦者を阻むギミックがあると昔スクールで学んだが、このサンヨウジムのギミックはどうやら簡単なクイズだったようだ。目の前に提示されたカーテンに描かれた模様に対して有利なタイプのパネルを踏んでいく。簡単なタイプ相性なら間違えない自信ならあったが、今朝ポケモンセンターでとタイプ相性の知識について話し合っていてよかったと心底感じる。するすると進んでいけば気が付けばジムの奥へと辿り着いていたようだ。一番奥で待ち構えているのは当然ジムリーダー。もうクイズはない。ここからが本番なのだと感じられるその空気に俺はごくりと固唾をのんだ。

「ようこそ。サンヨウジムへ」
 そう言ってにこりと俺を迎え入れたのは緑髪の男性。その傍らには赤髪と青髪の男性二人が待ち構えている。
「まずサンヨウジムでは最初に選んだポケモンについて聞くのが決まりなんだ。チャレンジャー、君の名前と最初に選んだポケモンについて聞いてもいいかい?」
「名前はトウヤ。最初に選んだのはミジュマル」
「なるほど水タイプ。それではこのデントがきみの対戦者ということですね」
 うんうんと頷くデントと名乗った男性。その横で赤髪の青年が俺じゃないのかよ。と悔しそうに顔を歪ませては青髪の青年に窘められる。デントが言ったことを考えるには、俺が最初に選んだポケモンのタイプによって挑むリーダーのタイプも変わるということなのだろうか。俺に不利なタイプなのならば、その対策も何もできていない俺にとって苦戦しそうなジムである。
「ぼくは草タイプの使い手。水タイプを選んだ君には不利なタイプだけれど……、それを覆す君の実力を是非見せてほしい!」
 おとなしかったはずのデントの雰囲気が変わる。目はギラリとまるで捕食者のように俺を見据えていた。
 これがジムか。俺はホルダーからミジュマルの入ったボールを取り出す。ボールを見つめていればうっすらと見える中のミジュマルと目が合ったような気がした。ミジュマルが力強く頷く。それに俺ははっとして、ミジュマルに俺も頷き返した。大丈夫だ。初めてのジム。緊張することなんて山ほどあるけれど。俺にはこいつがいるんだからきっと大丈夫だ。
 デントがボールを投げる。俺も負けじと手元のボールを振りかぶる。
 そしてバトルが始まった。