「そんなことよりみんな、みてごらんよ。いまちょうどふきだしはじめたんだ。すごくキレイだよ」
「へっ?」
みんなの声が重なる。そしてプクリンの言う方向を見て、みんなから歓声が上がった。私たちも湖へと振りかえる。
噴水のように、水が噴き出していた。そしてその周りを何匹ものバルビートとイルミーゼたちが飛んで、噴き出す水を彩って、まるでイルミネーションのように煌いている。
すごい……。
「この湖は時間によって間欠泉が噴き出すんです。そして水中からは時の歯車が、空中からはポケモンたちが噴水をライトアップして……、あのような美しい光景になるのです」
「きっと……。きりのみずうみのおたからって……、このけしきのことだったんだね」
私たちは皆、頷く。
だって、この景色は確かに宝のような美しいものだったのだから。
「……」
ボクは横で噴水を見つめるの顔を盗み見る。噴水をライトアップするイルミーゼたちの光に照らされて、夜なのにその顔はよく見えた。
「……、ここ、本当に綺麗だよね……」
は目の前の景色に魅入られながらも、ボクの言葉に頷く。
の横顔は先ほどの激闘で土埃に汚れていた。でもボクは、それが汚いなんて思えなくて、むしろ目の前の景色と同じくらい美しいものだと思った。
殆ど戦えなかったボクを庇いながら幻とは言え、伝説のポケモンにたった一人でも戦ってくれた。どれだけ怖かったんだろう。勝ち筋も見えない戦況の中で足掻いた彼女のお陰で、ボクらはこうやってこの絶景を見ることが出来ている。
「の過去が分からなかったのは残念だったけど……、でも、ボクここに来れて、みんなと一緒にこんな綺麗なものを見れて……本当に嬉しいよ」
今度はは何も反応しなかった。ただ、目の前の景色を忘れることがないかのようにじっと見つめている。
普段から無口な彼女のことだからいつもなら気にならない。でも、今回だけは何故か別だった。
も同じように思ってくれてたらいいのに。
そんなことを考えてしまう。変にこんなことを考えてしまうのは霧の湖の魔力か何かなのかな。
でも、本当に同じように考えてくれてたらいいのに。
そう思いながらボクは目の前の噴水に目を戻した。
「いろいろとおさわがせしました」
自然の噴水が終わった後、静かになったおやかたさまがユクシーに頭を下げる。ユクシーは首を振る。
「わたしは貴方達の記憶は消しません。貴方達を信頼しているからです。ですので此処でのことは秘密にして頂けないでしょうか?」
そう言う彼女の目はじっとおやかたさまを見据えている。
霧の湖にまでギルドの名前が届いていると言っていた。それほどまでに有名なおやかたさまっていったいどんな探検家だったんだろうか。
「うん。ありがとう。もちろんわかってるよ。さいきん、ときのはぐるまがぬすまれるじけんもあって、ブッソウだしね。ここのことはぜったいだれにもいわないよ。プクリンのギルドの名に懸けて」
おやかたさまはユクシーを見つめる。その声は真剣そのものだった。
しばらく見つめ合う二人。先にユクシーがふっと微笑んだ。
「よろしくおねがいします」
「うん。それじゃ、ボクたちはそろそろおいとまするね。ウタ!」
「はい! おやかたさま~!」
おやかたさまの声にウタがすぐさま応える。そしてくるっと私たち全員をまとめると、「それではみんな! ギルドへ帰るよっー!」と号令を出した。私たちはみんなその号令に応えて、霧の湖を後にした。
霧の湖からの帰り道。未だ夢見心地のギルドメンバーのなか、私は足を止める。
振り返れば、霧が晴れて空中に浮かぶ高台がまだ見えていた。
ユクシーは自分のことを知らないといった。でも、それなら何故自分は霧の湖を知っていたんだろう。そして、あの青く光る時の歯車。時の歯車を見た時に感じたあの鼓動。どうしてあんなにドキドキしていたのか。あの胸騒ぎは一体何だったのか。
まだわからない。分からないことがいっぱいある。
「ー? どうしたの、早く行こうよ」
タイが止まっている私を不思議に思ったのか、少し遠くから呼び掛ける声が聞こえた。
まだ記憶のことはわからない。でも、いずれきっと分かっていくはずだ。
だからまだこのままで。今はまだこのままみんなと、タイと一緒に居たい。
……? どうしてそんなこと思ったんだろう。
別に、みんなとお別れするという訳でもないのに。変なの。
「はやくー! 置いて行かれちゃうよー!」
うん。ごめんね、今行く。
私はその声に答えるようにギルドメンバーの方へと戻っていった。