「それで悪魔になっちゃったの?」
「うん」
 ぽかんとしている私の目の前には、体中に緑色に光る線を走らせたシンの姿。東京受胎?が起きて世界が滅んだだとか、シンが悪魔になってしまったとか、滅んだ後の世界でシンが奔走して世界を元に戻したとか、耳を疑うような話を彼から聞いたが、その彼自身の姿が正に悪魔のような姿をしているのだからもう信じるしかない。
 しゅんっと音を立ててシンがいつもの、彼的に言うなら人間の姿に戻る。見慣れている彼のパーカーやズボンの姿をまじまじと見つめる。私からするといつもの姿で、見慣れているものだが、シンはこの姿に戻るまでとてつもない時間と苦労をかけたらしい。なんだか釈然としない話だ。
「それで悪魔になったシンが世界を元通りにしたの?」
「ああ、元に戻した」
「なんか知らないうちに世界が滅んでて元に戻されたって感じしないなぁ。世界五分前仮説みたい」
「まあ当たらずも遠からずって感じだな。この世界はついこの間作り替えられたばっかりなんだから」
 シンの肯定とも否定とも取れない表情を見ながら、回らない頭をひねらせる。よく分からないけれど、シンは世界を元に戻したという。でも、元に戻さなくても自分にとって都合のいい世界を作ったり、なんなら世界を元に戻さないという選択もシンには出来たはずだ。なんでシンは代わり映えのない世界に戻すという選択をしたのだろう。
「ねぇ」
「なんだ?」
「なんで世界を元に戻したの? 自分にとって都合のいい世界だってシンは作れたんでしょ? 欲望優先とかしたら良かったのに」
 私の問にシンは首を捻ったあと、呆れたとでも言いたげに苦笑する。苦笑したシンは手を私の頭に伸ばしてポンポンと軽く叩くと再度笑った。
「元の世界に戻してでも会いたいって思った奴が居たからかな」
 そう言ってシンは私の頭を撫でた。私は知っている。これは彼なりの照れ隠しだ。だってほら、笑うシンの耳は先まで真っ赤に染まっている。なるほど確かにシンは欲望を優先したというわけだ。これはやられた。
 ふと、私はまだシンに言ってなかったことを思い出す。長旅を終えたシンに必要な言葉だったのに、あんまりに突拍子のない話だったのだから言うのを忘れてしまっていたのだ。私は息をする。
「シン」
「なんだ?」
「おかえり」
「ん、ただいま」