「幸せを分かち合いましょう」
 仕事から帰ってきたボクを迎えた第一声がそれだった。おかえりもお疲れ様も無しにが腕を広げてそこにいる。
「えっと、何?」
「疲れてるでしょ。だから幸せを分かち合うべきなんだよ」
 筋が通っていない。困惑するボクを余所に彼女はじりじりと近づいてきてボクに抱きつく。玄関に抱きついた男女が二人。中々にシュールな光景だ。
「えっと、さん? ちょっとよく分からないかな」
「黙って幸せを感じなさい」
 強情だ。こういう時の彼女にボクは歯が立たない。
ぎゅうぎゅうと抱きついてくる彼女にボクは白旗を上げた。諦めて彼女に手を回す。すると待ってましたと言わんばかりに彼女はにっかりと笑った。あれ、こんな笑顔を見るのは久しぶりな気がするな。最近仕事が忙しくて早く帰れなかったりしたし、もしかしたら寂しさを彼女に感じさせてしまったのかもしれない。そう思うとなんだか腕の中のがとても愛おしく感じられて彼女の首元に顔を落とした。ひゃっと驚いた声を上げたが、もとより先に行動したのはキミなんだからこれくらい許して欲しい。暖かい。暖かくて柔らかくていい匂いがする。なんだかボク変態みたいだ。くすりと笑ってしまう。嗚呼、なんだかたまにはこういうのも悪くないな。