どういうことですかとさんの怒声が響く。
クラスメイト達が何事かと振り向けばさんが理事長に詰め寄っている。
「77期生の捜索を断念するって、どういうことですか」
77期生。その言葉でぼんやりとボクは理解する。一学年上の彼らの中にはさんが親しくしていた狛枝先輩がいる。隣で江ノ島さんが気持ちはわからなくは無いけどと呟いた。松田くんまだ見つかってないし。悲しそうな表情で告げる江ノ島さんの胸中は、きっと今怒声をあげたさんと同じくらい複雑なのだろう。
「君たち78期生を全員無事に保護できただけでも奇跡なんだ。分かってくれ」
「でも、でも、77期生だって探せば、保護できるかもしれないじゃないですか!」
今にも泣き崩れそうな表情で言うさんを見てられなくて駆け寄る。私一人でも探しに行きますと走り出そうとする彼女を既の所で止めれば離してよ! と感情的な声が聞こえるがこればっかりは譲れなかった。
「落ち着いてさん。きっと先輩たちなら大丈夫だよ」
「大丈夫なんて保証どこにもないじゃない! 勝手なこと言わないでよ!」
「確かに大丈夫なんて保証は無いよ! でももし彼らがまだ生き残ってて、彼らを探すためにさんが一人傷付いたりしたって知ったら彼らはどう思うの? まずは自分を大切にしてよ!」
その言葉にさんは詰まる。所在なく視線をさ迷わせた後、彼女の目からは大きな涙がボロボロと崩れ落ちた。嗚咽をあげる彼女に理事長は謝罪とボクらを確実に保護する旨を述べた後去ってしまった。集まっていたクラスメイト達も気持ちを汲もうとしたのかいつの間にかどこかへ行ってしまっていた。此処には肩を震わせる彼女とボクだけだった。
ごめんなさい苗木くん。嗚咽で掻き消えそうな声で彼女は謝る。見苦しい所見せちゃってごめんなさい。ボクはいいんだよと返すが彼女の涙は止まらない。ボクは知っている。この涙を止められるのはボクじゃないことを知っている。そう思うと彼女がこんなにも涙を流す元凶の彼が少し妬ましい。少しだけでもいい。彼のことを忘れられたらいいのに。そこまで思って首を振る。違う。別にいい。ボクが彼女に想われなくたっていい。ボクが彼女をずっと想い続けることになったってボクは別にいいのだ。
まさか本当にボクらが記憶を失うなんて、そんなことはボクらは知らない。