「死んでみようかな」
 何となく。本当に何となく呟いただけだった。近くにいた苗木くんが振り向く。顔が強ばっている。物騒なこと言っちゃったな。でも、嘘じゃないんだ。出られるかも分からない学園生活の中、繰り返されるコロシアイに心身ともにもう疲れちゃったんだ。こんなならいっそ死んでしまった方が楽な気がして。
 そこまで思った瞬間にドンッと体に衝撃が走る。苗木くんだ。苗木くんが無表情のまま近づいてきていて私の体を押した。予想外の出来事に私は受け身も取れないまま情けなく教室の机や椅子にぶつかりながら転ぶ。打ち付けた肘や腕が痛い。堪らず叫んだ。
「なにすんのっ」
 その声に苗木くんは何も言わず、転んだ私につかつかと近寄ってくる。痛みに蹲るしかできない私は当然対処なんて出来ずにすぐに苗木くんに距離を詰められる。苗木くんの手が首に伸びる。苗木くんが怖い。
「痛い? 怖い?」
 苗木くんは転んだ私に馬乗りになって首に手を当てながら聞いた。伏せている彼の顔は前髪のせいでよく見えない。それが更に恐怖を感じさせる。
「あ、当たり前だよ!」
 首に若干の息苦しさを感じながら叫ぶ。苦しさからか、痛みからか、恐怖からか。もしくはその全てかもしれない。潤み始めていた目から涙が落ちる。
「それはさんが生きたいって思った証じゃないの」
 苗木くんは首から手を離す。ようやく見えた苗木くんの顔は涙でぐしゃぐしゃで。
「簡単に死ぬなんて言うなよ」
 絞り出すように呟いたその言葉を皮切りに苗木くんは体を震わせて泣き出す。
 死んだら許さないから。嗚咽の中から聞こえてくるその声はまるで呪縛のように涙と共に私に降り掛かっていった。