「さんって煙草吸ってたんだ」
独特の味のする煙を吐けば、隣の狛枝くんから声がかかる。知らなかったなぁと笑う彼に言ってないからねと返してもう一度煙草を口にした。
「体に悪いよ。肺がんのリスク高まるし」
「ならガッツリ副流煙に当たってる狛枝くんは吸ってるうちは私から離れるべきだよ。健康が気になるならね」
再度吐けば煙は風にたなびいて狛枝くんの方に行く。煙が当たった狛枝くんは顔を顰めてはボクは別にいいんだけどと言った。害の多い副流煙に当たっておきながら別にいいと言うとは、なんとも心が広いものだ。
「まだ子供のくせに」
「もう20超えてるけど。1つしか違わない狛枝くんに子供と言われるのは心外だわ」
「ボクから見たらさんはいつでも子供だよ」
その言葉によって顔を顰めたのは私だった。既に成人しているのに子供と言われるのは少しムッとする。そうやって煙草から気が少し逸れた瞬間に手元にあったそれを狛枝くんの手が攫っていった。突然の事で狛枝くんが煙草に当たって火傷していないか心配したが、平然としているのを見るにそういうことは無さそうだ。器用に奪われてしまった。狛枝くんは奪った煙草に口をつけては不味っと嫌そうな声を出した。嫌なら吸わなかったら良いのに。そんなことを思っていると唐突に狛枝くんが吐いた煙が顔にかかる。煙たさに噎せる。狛枝くんこれワザと煙を掛けたな。抗議の意を込めて狛枝くんを睨むと狛枝くんは笑った。
「これの意味が分からないうちはまだ子供ってことだよ」
じゃあね。そう言って狛枝くんは去ってしまった。煙草取られたままだったのを思い出し、新しい煙草を出そうとして気づく。無い。まさか煙草を取られた時一緒に狛枝くんにスられた? どれだけ器用なの?
なんだかどっと疲れが来た気がして、壁にもたれ掛かる。狛枝くんの言葉を思い出してみる。男性が女性に煙草の煙を吹きかける。それの意味。
「別にそれくらい知ってるし……」
また会った時に返してと言おうか。きっと返してやくれないだろうけど。