あげるよと無造作に渡されたそのアンクレットは夕日の光を浴びて怪しく光っていて。
訳も分からず、渡してきた方へ、狛枝の方を見れば、相変わらず胡散臭い笑顔をたたえた彼が両手をポケットに突っ込み立っていた。
「…なんですか」
過去を知ってると言えども、彼は現在進行形で怪しい人物である。これを渡してきた以上、何か意味があるのだろう。気をつけようとは思った。
「あはは、警戒心が強いねぇ。やっぱり、ゴミくずなボクが渡してきたものなんてつけるのは嫌だよね、ああ、それで」
「危険物ではなかっただけ良かったですね」
卑屈モードになった狛枝を止めるため言葉を遮った渚は渡されたアンクレットをもう一度夕日に照らした。
随分と安直な作りながらも先ほど述べた通り、存在を誇張する透明なガラス玉は夕日によって赤く染まり、元持ち主の狛枝のようなどこか胡散臭い、壊れてしまいそうな美しさを伴っていた。身に着けてはいないだけで、アクセサリーは嫌いではない。むしろ好きな方だ。流石に、狛枝が渡してきた張本人とはいえ、他人の厚意から貰った物をいらないと蔑むようなことは流石にしない。もしかしたら、意味なんてないのかもしれない。だってこんなに綺麗なんだもの。勝手にそう思った彼女はその場でしゃがみ込むと左足につけた。
「気に入ったのかな?」
立ち上がって着け心地を確かめてみれば、なんともピッタリで。嬉しさが若干顔に出ていたのかもしれない。狛枝が嬉しそうに顔を綻ばせて、こちらを見ていた。
「まぁ、そんなものです」
「冷たいなぁ。でもさ、気に入ってくれてるみたいだから安心したよ。それに、それはねボクとお揃いなんだよ」
どこに、これと同じものを?
記憶を反芻するも、さっき狛枝を見たときはそんなものは見当たらなくて、再度狛枝をみれば、ポケットから手を出した狛枝が袖をたくしあげ、隠れていた同じデザインのブレスレットが顔を出した。彼はうっとりとした表情でそのブレスレットに触れると、恍惚とした笑みを浮かべたまま渚へ質問をした。
「アンクレットを左足につけたときの意味を知ってる?」
そんなものがあったのか。知らなかったは正直に首を横に振る。
「『所有物』、だとか『独占』とかがあってね…独占したい女性につけていたそうなんだ」
「そして、ブレスレットには一説によれば、『所有者』という意味が有るから……ほら、こうやって二人で付ければまるでボクがキミの事を所有しているみたいに見えない?」
そう言って狛枝はブレスレットが付いて居る腕をくいっと動かし、まるで見えない鎖を引っ張るようなしぐさをした。それをじっくりと見てしまっていたの体が何故かふらりと傾く。狛枝が語った意味がそうなだけであって、別に自分が鎖に繋がれているわけでもないのにだ。体のバランスを崩してしまった彼女は前へ倒れてしまう。そんな彼女をとっさに狛枝がの体を支えて抱きしめる。角度的にも狛枝の顔が見えるわけがない。なのには狛枝がきっと笑っているとそう直感した。
「これで、もうキミはボクから離れられない」
耳元に聞こえてくる声は頭の中にまるで洗脳をされて居るかのように響いて。ないはずの鎖の金属音が聞こえたような気がした。