出来立ての気持ちを召し上がれ
今日も冷蔵庫の中身スッカスカだったな。きっとこの冷蔵庫の持ち主はそんなことすらわかっていないのだろう。流石にそろそろ叱咤しなければ。そんなことを考えながら菜箸を使って、お湯の中へ味噌を溶いた。
味噌がほとんどすべて溶けた後、お玉を使って味見をする。うん、美味しい。出来栄えに一人頷いていれば、電子レンジがチンと音を立てた。コンロの火を消し、電子レンジの中からおかずを取り出してお皿の上へと並べる。そしてお玉を使って私ともう一人、人数分お椀へと注ぐ。
仕上げに先ほどから保温されていた炊飯器を開ければ、中からはほかほかと白米が湯気を上げていた。成人男性のご飯の量ってこれくらいだろうか。まあ足りなかったらお代わりしてもらおう。ただお残しは絶対に許さない。そう思いながらこの家の家主を呼んだ。彼はすぐに来た。
「おー、うまそ」
家事を全くしないこの家の主、デンジはそう言って椅子に座る。
「一人暮らししてるんだから自炊くらいしなさいよ!」
「俺がしなくてもお前がやってくれてるんだからいーの」
そう言ってデンジはいただきますと言ってご飯を食べだした。こりゃあ馬の耳に念仏だ。私は観念して椅子についてご飯を食べだした。
「まったくもう。もし彼女ができた時、その彼女がご飯作れなかったらどうするわけ? 流石に彼女持ちの家にはご飯作りに行けないよ」
「別に今、彼女いないし。いらない心配すんなよ」
私の叱咤など、どこ吹く風というようにご飯をほおばるデンジ。定期的に「美味い」と褒めてくれるのは嬉しいが、それはそれ、これはこれ。そろそろ自炊というものを覚えてほしい。
コイツ、性格はクソだけど、顔と実力は一流なんだから彼女くらいすぐできていてもおかしくないのに。ああでも、性格がクソだから彼女出来ないのかな。そう思っていれば「なんか失礼なこと考えてんだろ」とデンジから睨みつけられる。おお怖い。昔からこういう直感だけは冴え渡っているんだから。
ご飯を食べ終わった後、私は食器を重ねて立ち上がる。ご飯を食べたら食器を洗う。当たり前だ。なのに私の目の前に座っていたデンジは頬杖をついたまま微動だにしなかった。
ご飯を作らないんだから食器くらいは自分で洗ってほしいんだけど。そう思って口を開こうとするが、その言葉はデンジによって遮られた。
「なあ、俺がわざと飯を作ってないんだって言ったらどうする?」
「は? 作れたの? それなら自分で」
「違ぇよ。そういう意味じゃないっての」
じゃあどういう意味なんだろう。私が首を傾げると、「この鈍感は」とデンジがため息を吐く。な、なんだコイツ。鈍感で悪かったわね。もうご飯作ってやんないぞ。
「お前が飯を作りに来てくれるから、わざと作らなかったって言ったら。どうする」
どうするって、なにも……。そこで私は理解する。
鈍感だって言われたけど、そこまで酷く鈍感じゃない。デンジが言ってることって、それはもしかして。もしかしなくても、私がデンジの家に来させるのが目的だったってこと?
呆然と立ちつくす私にデンジはにやりと笑う。
「鈍感でも流石に分かったか。じゃ、返事待ってるから」
そう言ってデンジは部屋を出て行った。……アイツ、結局お皿洗わなかったな。
呆然とする頭が見当はずれの感想をたたき出す。バカバカバカ。バカデンジ。私は手に持っていた食器たちをシンクに置きながら考える。あんなこといきなり言い出すなんて本当何なの。びっくりして食器を落としてたらどうしてたんだ、あのバカ。
でも、あんなバカにときめいて顔を真っ赤にしてしまっている私もきっとバカなんだろうな。