恋する温度
南国特有のカンカン照りの太陽が肌を焼く。雨が降らないこの島は、今日だけではなく毎日ずっとジワジワと皮膚を焦がして行く。それがとても不快なことこの上ない。この世界はプログラムなのだから、空に浮かぶの太陽はただのデータでしかないし、焼かれているこの体も再現体に過ぎない。しかし参加者にプログラム内を現実と誤認させるために究極のリアリティが追求された結果、日焼けというものが絶妙なバランスで再現されている。その技術の精度には舌を巻くが、正直なところ煩わしい。
連日、日に焼かれていたせいで、ヒリヒリと、肌は痛みという形で悲鳴を絶え間なく上げている。そんなこともつゆ知らず、再現された太陽は容赦なく次から次へと日光を投げかけてくる。日焼けで痛いだけでなく、暑いし、その眩しさに目が眩む。憎たらしいほど存在感をアピールする偽物の太陽に、体中から汗が吹き出してきている。くそう、せっかく日焼け止め塗ったのになぁ。汗で流れてしまったかもしれない。日焼け止めを塗ったからって、意気揚々と半袖の服にした朝の自分が恨めしい。半袖の服を着るのなら、荷物の中にUVカットパーカーを入れて来れば良かった。後悔先に立たず。こりゃあ採集が終わる頃には私の肌はこんがり焼けてしまうのだろう。ああすればよかった、こうすればよかったと、止まぬ後悔をしながらも、今期のノルマを達成するべく採集を続けた。
「今日も暑いねえ」
そう言って笑うのは同じ場所に採集に来ていた狛枝くんだ。こちらに笑いかけながら手を振る狛枝くん。その手は一度も日光に当たったことがないのかと思うほど白い。彼はいつも通り長袖のロングパーカーを着ていて、こんな炎天下じゃあそのパーカーは暑いだろうに、彼の顔には一粒の汗も見えない。代謝が死ぬほど悪いのだろうか。彼の汗一つ見せないその涼しい笑顔に私は苦笑を漏らした。
「ほんとあっついよねえ。日差しも強いし、今ちょうど日差し避けの長袖パーカー置いてきたのを後悔してるトコロ……」
「日差しが強いもんね。でもこの暑さじゃあ、長袖を着たくなかった気持ちは分かるよ」
手でパタパタと扇ぎながら狛枝くんはそう言った。そう言ってくれたものの、先述の通り、一見彼が汗をかいているようには全く見えないし、その白い肌に日焼けの跡が見えることも無い。純粋に他愛のない話をしてくれたんだろうけど、申し訳ないが彼にそう言われるとちょっと嫌味のようにも聞こえる。同じ時間に採集を開始して、同じくらいの運動していたはずなのに、彼との差が酷すぎる。線の細い美形は汗もかかないのかと若干八つ当たりに近い恨みが込めた視線をじいっと向けていれば、何と読み取ったのか狛枝くんはどうしようもないと言いたげに眉を下げて笑った。そして私に来るように合図する。何事かと思い、彼に促されるまま近づいていくと、彼はその特徴的なロングパーカーを脱ぐ。彼の白い肌を日差しが照らす。やはり彼は何処までも白くて、ほう……と見惚れていると、そんな私に彼はパーカーをそっと私の肩にかけた。
「どうぞ」
「えっ?」
「ボクなんかので良ければ、だけど」
「日焼けがこれ以上酷くならないように。ね?」狛枝くんはそう微笑むと採集に戻ってしまった。ぽかんとしばらくの間呆気に取られていた私はようやく正気に戻り、彼にかけてもらったパーカーの裾を握る。折角の彼の温情を無視するのは良くないと思って──、パーカーを羽織ろうとする手が覚束無いことに気付いた。
──ふわり。羽織ると、鼻腔を擽る匂い。それが狛枝くんの香りなんだとすぐに気が付いた。そう気が付いてしまうと、なんだかドキドキしてしまって落ち着かない。彼の香りがするパーカー。それを羽織った私は、まるで彼の香りに包まれているみたいで。ああ、顔がすごくあつくなる。きっとこれ、日差しのせいなんかじゃない。もしかして、これって。
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