冷え性のさんはクーラーの温度にはうるさかった。ボクにとってはまだ暑いともいえる温度だったけれど、冷え切った彼女の手や、ブランケットをかぶって縮こまる彼女の姿を見れば自然とクーラーの温度を少し高めに設定しなおしていた。夏になればいつもそうだった。
 ボクはそっと手元のリモコンを操作する。クーラーの温度は26度。さんがいれば寒いなんて言って拗ねそうだなとボクは少し笑った。
 クーラーの温度を下げるのはいつぶりだろう。とうとう変えてしまったクーラーの温度。いつもキミに合わせてたのにね。文句を言うさんが居ないから、今日はボクが勝手に下げちゃったよ。寒いから温度上げてくれない? と不服そうに眉を寄せて抗議するさんの姿はない。温度を下げたらそう言ってくれないかななんて淡い期待はすぐに裏切られることになった。
 暑い暑い真夏日。今日もさんは帰ってこない。