「大人だねコウキくん」
「どうして?」
 コウキくんが首を傾げる。その手にはほかほかと湯気をあげるマグカップ。
「私、コーヒーなんて飲めないもん」
「僕も最初は飲めなかったよ」
 コウキくんはそう笑ってコーヒーを一口飲んだ。その様があんまりに大人っぽいから、私はうらやましいなあと口をこぼした。
「それじゃあさ、なってみる? 大人にさ」
 コウキくんがそっと手元のコーヒーを差し出す。受け取って恐る恐る口にしてみれば、コーヒー特有の苦さが口いっぱいに広がった。
「にがい」
「ブラックだからね」
 コウキくんが笑った。そしてふと表情を変える。何かと思って今度は私が首を傾げて見ればコウキくんが口を開いた。
「そういえばさっきの、間接キス、しちゃったなって」
 その言葉にぶわっと顔が熱くなる。コウキくんがまた笑った。恥ずかしくて苦し紛れにコーヒーが熱かったのと言い訳してみれば、コウキくんはそういうことにしておこうかと微笑む。同い年のはずなのになんだか大人の余裕を見せつけられた気がした。私はきっとこんな大人になんてなれないな。