眩い光が咲くところ

日向→←夢主←狛枝前提のお話。

 好きなんだと思ってたよ。
 唐突に告げられた日向の言葉に狛枝は惚けた様な顔をする。誰が、誰を? 皆目見当もつかない、というその様子に日向は苦笑する。「今日くらい素直になれよ」「この上なく素直だよ」
 相変わらず頑なな彼に日向は嘆息する。素直じゃないよお前は。
「良いのか? 後悔するかもしれないぞ」
 言ってから半ば脅しのようになってしまったと感じる日向。狛枝が不快に思っていないかと顔を見るが、どうやら杞憂だったようで彼の表情は変わらず飄々としていた。
 しかし、何か思う所が彼にもあったようで。しばらく考える素振りをしていたが、意を決したようにその口を開く。
「好きだったよ。ずっと好きだった」
 日向は無言だった。狛枝の独白を黙って聞いていた。
「日向クンと同じくらい一緒に居たんだもの。キミがあの子のことを思ってるくらい、同じくらい好きだったよ」
 狛枝は目を細める。その視線の先はこの場に居る人を見てはいなかったが、その視線は此処にはいない人物が確かに写っているのだとそう思った。
「でもあの子は日向クンを選んだんだ。ボクはそれを尊重する。あの子が自分で選んだ幸せなら、ボクがそれを壊すなんて出来やしないからね」
「……なんというか、純愛だな」
「当たり前でしょ」
 狛枝はビシリと日向を指さす。指を指された本人は突然の出来事に思わず驚きの声を上げた。
「泣かせたら怒るからね」
「泣かせるかよ」
「言うと思った」
 狛枝は軽く肩を竦めて指を下ろした。そう言ってくれると思った。だから自分は彼に自分の大切な子を預けたのだから。
 狛枝はちらりと腕の時計を確認する。そろそろいい時刻を示していた。
「ほらもう行きなよ。新郎が新婦を待たせたらダメでしょ」
「もうそんな時間か。じゃあ、行ってくる」
 日向は走り出す。白い服が晴天に生えて眩しい。狛枝はその背中を見送って――見送るつもりだったのだが、堪らず声を上げた。
「日向クン!」
 日向が立ち止まる。振り返って「何だ?」だなんて言われるよりも前に、狛枝は素早く口を開く。
「幸せにね!」
 日向は目を白黒とさせて、――でもそれも一瞬で、すぐに満面の笑みになると「ああ!」と力強く頷いて走り去っていく。狛枝はその背中を今度こそ見送った。行き場を失った視線を空中に向けて。
 美しい空だった。
 狛枝は歩きだす。式にはまだ早いが、早く着くことに越したことは無いだろう。
 今日はいい日だ。そう、大切な友達が幸せになるには絶好の日だった。

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