髪を弄る。長くて、明るい髪。短くて暗い色をしていた私の髪とは大違いだ。
 違う。もう私じゃない。アタシなんだ。まだ慣れないけどちゃんとやらないといけない。明るくて、はっきりとしてて、輝いた人間。そんな超高校級のギャルにアタシはなりきらないといけない。
「江ノ島さんは超高校級のギャルなんだよね」
 彼女が恐る恐るといった感じで話しかけて来る。
「そーよ。顔が違うって言ったら怒るからね」
「そんなこと言わないよ! ギャルってあんまり見たことないから、ちょっと気になってて」
「ならじっくり見ちゃいなって! 超高校級のギャルとご対面なんてこの上なく喜ばしいことなんだからさ!」
 言葉を間違えないように。一つ一つを丁寧に選びながら、不審がられないように。ギャルってきっとこんな感じ。私を殺して、あの子になりきらないと。
「あはは……そう言われると確かに恵まれてるのかもね。こんな状況下だけど」
「でしょでしょ! あーあ、あとはこんな暇なところでなんか楽しいことして時間を潰せるようなことあればいいのにね。暇すぎて死にそう」
「……えと、それだったら読書とかどう?」
 彼女が食いついた。おとなしいようで意外としたたかな彼女はグイグイとくる。
「本読んでたら時間の経過とか忘れちゃうし……結構いいと思うんだけどな」
「ハァ? 読書なんてつまんないじゃん。それこそ陰キャみたいなこと、なんでギャルのアタシがやんなきゃなんないのよ」
 でもそれを私はバッサリと切った。途端、彼女はしゅんとして「うん……。合う合わないあるから仕方ないよね……。ごめん」と顔を下げてしまう。
 正しい。私は正しい。ギャルならきっとこう言う。ギャルとして正しい行動を私はしたはずだ。なのになんでこんなに胸が痛いんだろう。
「もっと他にやれることあればいいのにね。一生をこの学園で過ごせって言うならそれくらい用意してほしいよね!」
 無理して笑うさん。自分の好きなことを否定されたらつらいはずだ。なのに偽物のギャルのアタシに合わせてくれる。本物じゃないのに。偽物なのに。
「でもさぁ」
「え?」
「この先、ほんっとうになんもなくて、やること何もないってなったら、読書するのもアリかもね」
 少しだけその顔に明るさが戻った。
「本当になんもなかったらよ。他に暇潰せそうならそっち優先だから。本なんて二の次よ二の次。暇潰すための選択肢の一つでしかないし」
「そういうのでいいと思うよ読書って。無理強いするものじゃないんだし。……もし読みたいって思ったらいつでも言ってね。江ノ島さんに合いそうな本探してみるから」
「簡単な奴にしてよー? アタシ、本なんて読み慣れてないんだから」
 アタシたちはあはは、と笑い合う。
 たぶんこれはギャルとしては正しくない。でもちょっとだけ心が楽になった。完全な私の我儘。でもこの我儘を通してもいいなら、また貴方の勧めてくれた本が読めるなら。その時は今度こそ一緒に感想を言い合えるといいな。