
レイニー、傘に入るかい
「うわ、最悪」
ぽつりぽつりと窓を叩き出した雨を見てひとり愚痴る。朝の天気予報は1日曇りだと言っていたのに。天気予報の裏切り者。雨が降らないと思っていた私は傘を持っていない。放課後までにはやんでいると良いけど。祈りながら窓から目を逸らした。
気だるい授業が全て終わったあと。私の祈りなんて無視して雨はさらに強まっている一方だった。酷くなることは予想していたけれど、ここまでとは。これではびしょ濡れで帰って明日に風邪を引くまでがルートだ。小さく溜息をつく。濡れては行けないプリントなどは鞄の奥に入れて死守しなくては。
「さん傘無いの?」
まだ帰っていなかった隣の席の苗木くんが言う。図星なので私は頷いた。よくわかったね苗木くん。
「雨降り始めてから溜息いっぱいしてたからさ。そうなのかなって」
鋭い。そんなに溜息してると幸せが逃げちゃうよと苦笑する苗木くんによくみてるねと返す。途端に苗木くんは顔を真っ赤に染め上げて首肯した。居心地悪そうに目線を逸らす。なにか変なことでも言ってしまっただろうか。
「あ、あのさ、もし良かったらボクの使ってよ」
「苗木くんの? そうしたら苗木くんどうするの?」
「ボクは折りたたみ傘あるから」
「そう?」
どうやら苗木くんが傘を貸してくれるようだ。ありがとうと礼をいえば、彼はどういたしましてと言って、自分の傘の特徴を教えてくれた。優しいな苗木くん。
傘の特徴を言い終えた彼は、それじゃあ先に帰るねと言って教室から出ていってしまった。あ、いつ返すか言うの忘れちゃったな。あとで連絡しなきゃ。そう思い直して荷物を鞄に入れる作業を再開する。
全てを入れ終えたあと、まだ雨強いなと外を見やる。地上を見れば傘の模様が幾つも見えた。花柄、水玉、無地。そんな傘の中1人だけ傘をささずに走る子がいた。あれ、もしかして苗木くん? 折りたたみ傘があると言っていたのにどうしてだろう。見間違えかと思うが彼の特徴的なパーカーを再度捉える。彼だ。彼はさっさと走っていって角を曲がり見えなくなってしまった。どうして彼は傘をさしていないのだろう。もしかしてあの折りたたみ傘は嘘? 私が遠慮なく傘を借りるための嘘。こんな雨の中だ、体は冷えて風邪を引いてしまうだろう。それなのに自分のことは省みず他の人にたった一つの傘を渡すなんて。分からない。分からないなぁ。
「馬鹿な人、」
何もそこまで優しくしてくれなくてよかったのに。